LOG IN

ゲンバビト

by 加藤 いさお

スピンオフ第七話

紳士協定

怖い思いってのはゲリラ豪雨のように

前触れなく土砂降りの雨を降らす

地震もそうだ、天災の前では

ヒトはその圧倒的なチカラに絶望してしまう。

人災はどうだ?

危機回避能力に長けてる奴でも

それを回避するのは

むちゃくちゃ難しい

歌舞伎町に居ついてた頃

トオルに拉致られた時

いくら(もがいても)(喚いても)大人数の中では自分は無力だと知る

(あんな思いは二度とごめんだ)と思っていても、ソレは突然やってくるんだ。

あれは数年前、僕がフィレンツェというイタリアの小さな街からミラノに到着して、間もなくの事だった

みんなはジプシーって言葉を聞いた事があるかい?

簡単に言えば移民の事で

不法滞在の人々が群れを無し暮らしている奴らのことさ

大陸続きのヨーロッパならではの

人々で、彼らは(生きる為に必死)

だからそういう奴らが近づいてくると

危機管理回避センサーが働いて

シカトする事を

この数年の欧州の旅で僕は学んだ

案の定ジプシーの子供が寄ってきた

何を喋ってきてもずっと無視する

一人の少年が僕の手を引っ張った

ふり解いて

「触るんじゃねえ」と威嚇した

彼らは少年だけど

目は暗黒街で生きてきた奴らの目に似ている。

(死を覚悟した目)

ああいう目をした人間てのは

ハッタリだけでは

そんな目にならない

生き様が目に出るんだ

その類の人間を

10代の頃腐るほど見てきた僕は

子供でも情に流されちゃいけねえ

と教えてくれる。

立ち止まってしまった僕に

その子供の親らしき奴が寄ってきた

「俺の子供がお前に迷惑かけちまったようですまねえな」

「いや、良いよじゃあな」

淡々と会話をしているうちに

子供は僕のスーツケースを奪った

「あ?」まさに音速の出来事で

僕はその子供を追いかけた

あのスーツケースには

重要な書類が沢山入っている

あれが無くなると何しに

イタリアに来たかもわかんねえ

間も無く追いつく

子供の背中を蹴り飛ばした

前のめりに転んだ子供のポケットから

(カラン)と乾いた音がした

バタフライナイフが転がった

そのナイフを蹴り飛ばし

子供を怒鳴りつけた

子供を威嚇するなんざ

らしくねえが

さっきも言ったが

こいつらは子供だが子供じゃねえ

その理由は・・・・

間も無く

マフィア達が僕に向かって

駆け寄ってくる

(やはりな、この類のスリ連中のバックには必ずマフィアがついている

日本でもヤクザがケツ持ちをするだろ?どこの国でもそう言うルールは世界共通なんだ)

(捕まったら殺されるな)

ここは日本じゃねえ

遠い異国だ

そしてアジア人差別が普通にまかり通っている国だ

スーツケースを奪い返して

僕はそれを抱えて

「洒落にならねえな」と愚痴を言いながら猛ダッシュした

後ろで何か大声で喚き散らしながら

数人が追いかけてくる

ミラノの中央駅前の公園を全速力で走り、とあるホテルに駆け込んだ

「どうした?」

ベルボーイの黒人の男性が僕に話しかける

「荷物を奪い返したら、追われているんだ」

「それは、災難だな、ここに居な

奴らはこのホテルには入って来れねえんだ」

シマの違いだろう

変に他のファミリーのシマを荒らすと

いざこざが生じてしまう

(汗だくだな)真冬のミラノは想像以上に寒いが、ガムシャラに走ったせいで全身汗まみれだった

マネージャーらしき人が

「部屋を貸してやるから少し落ち着きな」

「俺は、ここのホテルを予約してないんだ」

「わかってるよ、貸してやるから

1時間くらいしたらロビーに戻って来い」

ルームカードを渡してくれた

「ありがとう」そう言って

僕は(お言葉に甘えて)

無料でその部屋を使わせてもらった

シャワーを浴びて

自分から出ているアドレナリンを綺麗に洗い流した。

ロビーに降りて

マネージャーを見つけ

「ありがとう、助かったよ」

「ホテルマンとして当然の事だよ」

5ユーロをマネージャーに渡した

「ありがとうよ、気をつけるんだぜ

奴らに見つかるんじゃねえぞ」

「ああ」

そう言ってマネージャと握手を交わした。

自動扉を出る前にさっきの

ベルボーイにもチップを渡し

振り返った

ホテル名は

「ホテルミケランジェロ」

今では、このホテルは僕の定宿だ

何故かって?

言わなくてもわかるだろ?

あの日以来

僕はこのホテルと

紳士協定を勝手に結ばせてもらっているからさ。

OTHER SNAPS