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ゲンバビト

by 加藤 いさお

スピンオフ 第四話

窮屈と退屈

(バイヤーになりてえな)そんな事を何年か前にふと僕の脳裏を過った

だってクールじゃねえか?

飲み会で (職業何?)ってチャーミングな女の子に聞かれると

スカして「バイヤーやけど」って言えるんだぜ

まあ、僕は海外に行った事がない

説得力ゼロだな

ようやく念願叶って

フランスとイタリアに行けることになった。

初めて訪れる関西空港

様々な航空会社がひしめいていて

(こんなにも人々は

世界に飛び立っているのか?」

いかに自分が小さい島国で

そしてあんなアンダーグラウンドな世界で小さくまとまっていたかを強烈に感じた。

エールフランス航空のカウンターで

グランドホステスの姉さんが

「お席は窓側と通路側、どちらをご希望ですか?」と訪ねてきた

そりゃあ「窓際だろ」と

僕は即答した

だってさ、景色を堪能できるんだぜ

通路側のような外れを引きたくない

「間もなくこの機は離陸します」

そんなアナウンスが流れてきて

僕の胸は躍った

(こんなデカイ鉄の塊がどうやって飛ぶんだ?」と考えると

急に怖くなったのも確かだ

よからぬ事を思い出す

ガキの頃ニュース速報で

「日航ジャンボ機が墜落した」と速報が入った

東京から大阪のたった数時間のフライトで数えきれない方々が命を落とした

僕と同じ小学校に通う一つ下の

男の子のお父さんも

あの事故で亡くなってしまった

そして機内アナウンスが鳴る

「窓側の方はブラインドをお閉めください」と流れる

「景色見えない窓際は地獄じゃねえか?」

横に2人居るし

うかうかトイレにも立てねえ

字幕が出ない映画を観ながら

ニュアンスで内容を愉しみ

僕はいつの間にか眠りに落ちていた

「パリ、シャルル・ド・ゴール空港に到着しました」そんなアナウンスで起きた。

花の都に着いたが

このままミラノに向かう

一瞬のパリ

同じ便に乗っていた

あんなに大勢いた日本人が居なくなった。

急激に不安になった僕は

看板を頼りに

ミラノ行きのゲートに向かった

到着したのは深夜近くで

僕は、ミラノ中央駅行きのバスを探した。

バスを見つけて

荷物を自分で入れて

席に向かった

(ここはミラノなのか?)

まだ実感が湧かない

辺り一面は真っ暗で

極度に襲ってくる眠気と闘いながら

中央駅に着いた

スーツケースを押しながら

地図を頼りにホテルを探す

想像以上にボロっちいホテルにチェックインして

スーツケースから荷物を出す気力もなく僕はそのままベッドで墜ちていった

聞き慣れないサイレンの音でふと目を覚ます

カーテンから少し光が入っていた

カーテンを開けると

そこは

(本当にイタリアだった)

石畳の上を路線バスが走り

まだ夜明け前なので

人もまばらに歩いている

石造の建造物

それを見るだけでも

胸がワクワク躍ったんだ

シャワーを浴びて

朝食会場に向かう

バイキング形式になっていて

見様見真似で、食事をトレーに乗せて

隣のおじさんの真似をして

従業員のばあさんに

「カプチーノペルファボーレ」と頼んだ、そのばあさんは

笑顔で頷き

僕のテーブルの持ってきてくれた

カプチーノ一杯に感動した

朝食を済ませて

タクシーでネクタイのショールームに向かった

出迎えてくれた長身の紳士は

「ダヴィデ」と名乗り

僕にハグをしてきた

「君にシルクの生地を見せる」と

気が遠くなるほどの数のシルクのサンプルを見せてきてくれた

「色が違う」

欧州のシルクは

得体の知れない気品がある

水が違うのか?染料が違うのか?

それとも(感性)が違うのか?

「間違いなく感性だな」

歴史と文化の違いを目の当たりにした

ご存知の通り僕には基礎がない

今までの人生行き当たりばったり

だけどさこんな広い世界で

卑屈になっちゃいけねえ

媚びたらいけねえ

そんな事を考えながら

僕は一枚一枚のシルクに命を与える気分で、チョイスしていった

これが(バイヤー)しんどい仕事だな

理想と現実はちょっと違う

華やかな世界は必ず

相反する世界が存在する

僕が青春を送った

歌舞伎町という歓楽街が良い例だ

よく耳にする言葉

それは

(表裏一体)シックリくるな

「そろそろ昼飯に行かねえか?」

「いや、まだ選んでる」

「だめだよ、昼の時間だから

お前も付き合え」

無理矢理ダヴィデとその部下

フランチェスコに連れられ

隣のレストランに連れて行かれた

「日本人ってやつは

昼も楽しめないのかい?」

そんな言葉をダヴィデから聞き

「日本人は真面目なんだよ」

照れながら

彼に言った

「息抜かなきゃ、良い仕事はできねえな」

「その通りだね」笑いながら

パスタをすすった

「だめだよ、音を立てちゃ」

日本には蕎麦を啜る文化があるが

どうやらこの国では

マナー違反らしい

「ごめんよ、日本じゃ音をたてて食べるんだ」とジェスチャーして

「僕らには考えられない行為だ」と

教えてくれた。

窮屈な国だな

いや、日本が窮屈なんだな

きっと僕らの日常は

退屈なんだな

この1日で僕は

憧れのイタリアという国に

驚くほど溶け込んでいった。

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