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ゲンバビト

by 加藤 130

スピンオフ

愛と哀 後編

 

そんなこんなでユースケは一年越しに

ようやくファミリーの一員になった気がする

キッカケは動画だった

「ユースケ、動画の編集できる?」

「はい、iPad Proを買ったので

チャレンジしてみたいです」

僕も動画は未知の世界

ここから

ユースケと僕との二人三脚で

仕事をする機会が増えて

彼はどんどん僕に萎縮しないようになってきた。

写真を撮るのが

群を抜いてうまいナオキに

教えを乞い

メキメキと上達していった

そう、ユースケは(学べば学ぶほど

己のチカラになる)という

手応えを今更ながらに感じていたのだろう。

彼の長所は学ぶまでは遅いが

学べばとてつもない力が身につくという能力を持っていたことだ。

些細な事でも

褒めれば

また、あの無邪気な笑顔で喜んだ

「ああ、そうかユースケは

褒められたかったんだ」

僕も人様に褒められた経験が

かなり少ない。

だけど、考えてみたら

褒めてもらった(あの時のコト)を

忘れずにいる

ウチの舗(みせ)の顧客さんにも

(新人の子)から(ユースケ)と認識されるようになった。

顧客さんも皆

ユースケをひどく可愛がった

気づけば友達も増えて

顧客さんも増え

あれだけ苦手意識を持っていた

オーダースーツも

今や手慣れた手つきで採寸してやがる

(ビスポーク)という言葉を聞いた事があるかい?

テーラー屋で良く耳にする言葉だと思うんだが、

be spoke 字の如し

(話しながら〜共に作ってゆく)

彼はお客さんの人生という物語に

食い込みその物語の登場人物の

一人になっていった

話し下手だった人間も

自信が身につけゃ

コロっと変わるもんで

今や

一年前のユースケとは全くの

別人だった

「飯行くぞ」

「はい、お願いします」

そんな日常が続き

ある日LINEが入った

「明日、お時間取っていただいてよろしいでしょうか?」

嫌な予感がした

僕のこういう予感は必ず当たる

「いいよ」とだけ返信した

寝床で考えた

(あいつ辞めるのか・・・・)

(いや、これからって時にそんな筈ない)

(わざわざ大阪に来たんだぜ?)

気づけば自問自答のオンパレードだった。

朝早く事務所で待っていると

ユースケが入ってきた

「どした?」

「あの・・・・」

「辞めるのか?」

こいつはエスパーか?というような顔でキョトンとした

「はい・・・・」

「理由は」

ここでは到底書けないが

彼には背負があった

実家の千葉に帰らなけらばならない

理由がある。

「お前・・・これからって時に」と

言葉を続けようとしたが

それを飲み込んだ

第三者が介入できない事情は

いくら説得しても

無駄なことくらいわかっている

ユースケがそれを背負うと決心したのだから

僕は・・・・

僕は・・・・・

快く送り出すだけだと思うが

あまりにも惜しい

あまりにも哀しい

また泣いてやがる

こいつの特技は

笑うことと泣く事だな

そしてヒトを幸せな気持ちにする事だな。

思いやりってやつは

わざとらしければわざとらしいほど

胡散臭く感じる

だけど

心の底からの思いやりって奴は

人の闇を光に変える

(こいつこそ

マジシャンじゃねえか?)

そう思いながら

目の前のユースケに言った

「もう、お前と

俺は切っても切れない縁の中で

生きている

だからお前がこの会社を辞めようが

俺は勝手にお前のことを家族だと思っている、だからしんどい時は

いつでも言え

もし実家の事が

落ち着いて戻ってきたくなったら

いつでも戻ってこい」

「ウチの会社のスタッフは全然使えねえ」そんな経営者をよく見る

「うわあ、心中お察しするよ」

そんなカスみたいな奴に同調する

人間も同類で

「いやいや、それ

あんたの会社の社員だろ?

じゃあ経営者のあんたが悪いだろ?

部下はもっと外で

あんたの悪口言ってるよ」

そう言うと

「飲みの席だから

そんな事言うなよ」と

ムスっとしやがる

社員は会社の鏡であり

雇ったのも自分だということを

すっかり忘れてやがる

よく政治家が

「責任はあんたにある辞任しなさい」と国会で詰めている現場を視るが

まさしくその通りである

部下の責任は社長の責任

会社の責任も社長の責任

それだけリスク張る気持ちで

皆さん希望に満ち溢れて

会社を立ち上げたのだろうに

すっかり忘れてやがる

他責 他責の連鎖

一年ほど前

コロナという未知数の魔物が襲ってきた、ヒトは追い詰められた時

眠っている

魔物が解放される

その魔物を退治するのも

己なのだ

他責にしたところで

現状は脱却できるのかね?

仕事もそうだ

部下のせいにする

社長・・・・・

その図式を見ると

僕如きでも想像できる

部下の愚痴をぶちまける経営者

その数だけ

会社のせいにする社員が

一杯いるんだろうな

(陰険な世の中だな)

「なあ、ユースケ

残された日を精一杯頑張るんやぞ

最後にウチで爪痕残したれ」

「はい、絶対にがんばります」

あれから

数ヶ月が経った

最終日(ユースケDAY)と

彼が一日店長をする日がやってきた

気がつくと

ユースケめがけて

来店してくれる

人 人 ヒトのオンパレード

こんなにも愛されていたんだな

そう思うと

少し胸が詰まった

「ウチの会社は僕がポンコツなんで

最高の社員たちのお陰で

逆境に強くなってきたんですよ」

とある新聞の記者の方に答えた

「社長の野望はなんですか?」

「う〜ん寂しがり屋なんで

皆ウチの看板で独立して欲しいですね

そういうホールディング会社をつくって皆で幸せになりたいですね」

ちゃぶ台を囲むような

そんな組織

上場したいとか年商数百億とか

そんな大それたビジョンではなく

たとえこの会社がもっともっと

社員のお陰で大きくなっても

ずっとちゃぶ台を囲みながら

バカな話ができる関係を築いてゆきたい。

そして(今に見てろよ)と

昔、散々僕の事を小馬鹿にしてきた奴が近づいてきても

鼻で笑って

(興味ない)と

皆で一つの事に向かって行きてえなあ

「ユースケ、よく頑張ったね

最後に爪痕残したやんか」

「はい、こんなに、こんなに

皆さんが来てくれるなんて

感無量です」

「ああ、この成功体験は

ユースケのこれからの未来にとって

必ず宝になるよ」

「なあ、おんぶしてや」

「え?功希さんをですか?」

「ああ、だめか?」

「いえ」

何を突然言い出すんだ

そんな態度だったが

僕は構わず

ユースケの背中に乗った

「重いか?」

「いえ、思ったよりも軽いです」

「そうか、思ってたよりも

軽い、それはお前が成長した証やな

昔やったら重く感じたと思うぞ」

「ハイ」

あの笑顔でユースケはにっこり笑った。

なあ、ユースケ

重いと思って背負うのを

諦めるのじゃなく

背負ってみな

(ソレは思ったより軽いから)

行ってらっしゃい。

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