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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第一章 挫折

第二話 鉄は千五百度で溶ける

「トモヨシ遅えよ」

「ごめんごめん 止まんなくてさ

この短時間で5万買ったよ」

「まじ?」

「まじ!今日のライブは成功だな」

「打ち上げ代も確保できたな」

「おいおい、ま・・・いっか!」

「てかさあ、満員御礼じゃん?」

「後藤さんが

当日チケットも完売って言ってたよ」

「気合入るな」

「だね・・・・・・・」

「さて、そろそろSEが鳴るね」

SEとはライブが始まる前に

盛り上げる音楽の事で

場の空気を一気に

そのバンドの雰囲気にしてしまう

魔法の音源の事だ

ちなみに僕らは

Stuck Mojoというバンドの

pigwalkという曲を使っていて

いつもこの曲を流し

自分たちを鼓舞している

このErrorといういバンドのジャンルは

ミクスチャーと言われるジャンルで

簡単に説明すると

ラップとロックを混ぜた音楽の事で

僕らは

レイジ・アゲインストザマシーンの

クールなサウンドに

かなり影響され

このジャンルのバンドを組んだ

会場の照明が暗くなる

箱の中は超満員で

僕らの楽屋は2階にあり

ステージに向かう道のりは

客席を通らねばならない

暗黙の了解でオーディエンスの方々は

演者の為に

花道を作ってくれる

僕らはソコを通る

16ビートのドラムに合わせて

ド~~~ンという重低音が鳴り響き

SEが始まる

「よっしゃいこうか!!」と

ドラムのアツシが先ず階段を降りる

そしてベースのタク

ギターのトモヨシが続き

おいしいところは

ボーカルの特権の僕がいただく

メインディッシュというやつだ

ステージの上に立つと

各々が好き勝手に楽器を鳴らす

そして僕は

何度もジャンプして己を奮い立たせる

ハンドマイクを持ち

一瞬時が止まる

ハジマッタ・・・・・・

ドラムの軽快なリズムの上に

ベースが乗り

そしてさらにギターが乗る

「とべ~~~~~~~~」と僕は

客席を煽った

この時だけ

我らは王なのだ

僕の言葉に

ステージ下のオーディエンスは熱狂し

そして

モッシュといわれる

儀式が始まる

興奮したお客同士が体をぶつけあうのだ

僕はさらに煽る

客席からステージに向かって

ダイブしてくるお客もいる

彼らは興奮状態で

僕らと同じステージに立ち

何度かジャンプして

僕に押されて

また客席に消えてゆく

「燃え尽きたな」

と僕は

ステージの余韻に浸りながら

楽屋でビールを飲んだ

誰かが扉をノックする

アツシが開けると

後藤さんだった

「おつかれ~

すごく良かったよ

もうワンマンいけんじゃん」

系列店の

ブッキングマネージャーを連れてきたから

と 一人の男性が現れた

「鈴木です」と僕に名刺をくれた

「良かったよ

一度馬場のシルキーに出てみない?」と言う

「マジすか?」

シルキーとは

リミッターの倍以上はあるオオバコで

インディーズバンドが

ここでチカラをつけて

メジャーに上がる登竜門的な存在の

ライブハウスだ

「シルキー・・・・・」

僕らは有頂天だった

「まずは

ゲノムのオープニングアクトを

してもらおうと思う」

ゲノムはメジャーにもっとも近い

ミクスチャーバンドで

僕らが知らないわけがなかった

「俺達、前座はやらねえ」と

格好つけるべきだが

僕は舞い上がっていた

いや、おそらく

メンバー全員が

同じ気持ちを共有していただろう

「やろうぜ」

と僕は皆の顔を見た

皆、無言で頷いた

「じゃスケジュールは

来週ウチの箱に来て決めよう」と

鈴木さんはあっさりと去って行った

「よし、トモヨシがパチンコ勝ったから打ち上げやろうぜ」

「おいおい、半額だけだすよ」

 

「けちけちすんなよ、

俺達親友だろ?」と

僕はトモヨシの肩に手をまわし

ライブハウス リミッターの

階段を登った

そう、トモヨシは

確実に僕の親友「だった」

10代特有の

ナニモコワクナイと

強烈に上を目指す気持ちを

遮断するかのように

新宿の歌舞伎町の闇が

僕らに迫っている事を

知る由もなかった。

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