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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第一章 挫折

第四話 闇の中へ

 

「カネねえなあ」東京に来てからの僕の口癖はいつもこれだ

パチンコヒカリの

アルバイトだけではバンドの練習や

自主制作のレコーディング費用だけで一瞬で飛んでしまう

「なんか、パッと稼げる仕事ないのかね?」と僕はトモヨシに尋ねた

「パチンコで稼ぐしかないな

俺、パチプロなろうかな」とトモヨシは真顔で言う

「無理だろ、勝負は時の運なんだからいつか痛い目に合うよ」と

僕はトモヨシを諭した

「夜専門の求人誌があるらしいぞ」とトモヨシが言う

「そんなの、あんの?危険な匂いがプンプンするやん」 「だね、そういう仕事が稼げるんだろうね」

「おまえさ、ホストやりゃいいじゃん」とトモヨシに言うと

「たまに考えるんだけど、なんだか気が乗らないんだよな」「おめえならナンバーワンなれるよ」と僕はお世辞抜きで奴に言った

「ま、一度探してみるよ」とトモヨシはギブソンのレスポールをギターケースにしまいながら、「じゃお疲れ」と帰って行った。

「夜の求人誌かあ」と僕も少しだけ興味を持ちながら

ふる里のドアを開けた

「お、練習終わったのかい?なんだよ暗い顔しやがって」

「カネがねえんだよ、大将にはわからない悩みさ」

「一生懸命働いてりゃカネなんぞ黙ってても稼げるようになるんだよ」

「現実は厳しいんだよね」

「おめえさ、家庭教師とかやれねえのか?お客さんのお嬢さんが探してるらしいぞ」

「中卒の俺が、家庭教師?無理に決まってるやん」

「それもそうだな」と大将は笑いながら厨房に消えて行った

ふる里で夕飯をご馳走になり

帰り道コンビニに寄り

雑誌コーナーに行くと

噂の夜の求人誌があった

「これかあ、と僕はパラパラと求人誌をめくると」ひとつのページが目に止まった 「短時間で稼げます、夕方五時から深夜まで 勤務時間応相談 交通費全額支給 食事付き 時給二千円から」気付くと僕はこの情報誌をレジに持っていっていた。

早速書いてある連絡先に電話する

「あの、求人誌を見て連絡したのですが」 「かしこまりました、では面接の希望日はございますか?」拍子抜けするようなバカ丁寧な対応に僕は少し安堵を感じながら、早速明日の三時に面接にいくことになった。

場所は「新宿歌舞伎町」僕は歌舞伎町という町をちゃんと「知らなかった」

西武新宿線の終点西武新宿駅で降りて、靖国通りを歩く、生粋の方向音痴の僕は

曲がるところを間違えて二本前の道を歌舞伎町に向かって入っていった

何度も何度も繰り返される

「一時間八百円」とテレクラの呼び込み音声が鳴り響くその通りを「この通りじゃないな?」と僕は不安になり

もう一度歌舞伎町の入り口に戻った

ようやく見つけたのは面接時間ギリギリで気付けば僕は「いやな汗」をかいていた。業務内容はショウパブのウエイターと書いていたが、僕はいまいちその業務内容を理解せず「カネに目が眩んだ」世間知らずのただのガキンチョだった。

事務所のドアを三度ノックした

「どうぞー」と明るい声が僕を迎えてくれた 「どうぞどうぞ座って」とスーツの男性はこの町に似合わないほどジェントルマンに見えた。

履歴書を渡し、その紳士から飛んでくる文言を待ち構えていると

「あれ?出身は大阪なんだ、学生さんではないよね?」 「はい、フリーターをやってまして」 「そうなんだ、なんで東京に来たの?」と質問がくるので

「バンドをするために上京してきました」と少し「誇張」して答えた、「そかそか、ウチの業務内容はわかってる?」と言うので

「ホールスタッフですよね?」と尋ねると、「間違ってはいないんだけど、ウチはニューハーフがショーをするパブなんで君には裏方をやってもらうよ、例えば客席を仕切る幕の開け閉め

や通りでのビラ配り、後はお客さんにお酒や料理を運ぶ仕事かな」と意外に多い業務に僕は少し戸惑ったが

「時給は二千円、ショーが始まるのが夜の七時からだから、それまではビラ配りをやってね」と言う「ウチはビラ配りに厳しくてね、たまに様子を見に行くからサボったらだめだよ」と紳士は笑顔で言うが、目は笑っていなかった。

「どうする?食事も、付いてるし音楽やってるならこういうショーの舞台裏を経験するのも良いと思うけど」と僕の背中を押した

「わかりました、よろしくお願いします。」と、僕は答え「かけもちでパチンコ屋のバイトもしていまして、練習も週二回やっているので週二回か三回なら入れます」と答えると「ウチは週五回入ってもらいたいけど、まあいいや取り敢えず勤務表渡すから勤務初日の日にここに、入れる希望日に丸をつけて持って来てね」と紙を渡された。

「トモヨシ、俺さ歌舞伎町のショーパブのバイト決めてきたわ」と電話した。「マジ?歌舞伎町ってヤバイとこじゃねえのそれ?」「いやー全然そんな感じしなかったよ、ま、嫌ならすぐバックレるわ」と若者特有の

「軽いキモチ」と「軽いノリ」で僕は闇のトンネルの入り口に立ってしまった。

勤務初日の日、僕は靖国通りを歩きながら、少し緊張していた

何事も慣れない事を始める第一歩は緊張するもんだと言い聞かせ

事務所に行くと「おはよう」と夕方なのに紳士が僕に言うので「お疲れ様ですよろしくお願いします」と答えると

「ここに入るときはいつも、おはようございますと言ってね」と奇妙な事を言うが僕は従った。

「じゃあ、店に案内するからついて来て」と僕は紳士についていった、区役所通り沿いを少し歩く、何故かすれ違うそのスジらしき人が紳士に「おはようございます」と声をかける「おはよう、今日からこの子ウチのバイトだからよろしくね」と僕の方を見るので

僕も慌てて「よろしくお願いします。」と挨拶をした「おう、頑張ってな」と僕の肩を二度たたき「じゃ」と去って行った。「ここの二階」と螺旋階段を登り 「アルケミスト」という派手な看板を抜けて扉を開けると

そこは別世界だった

一言で言うと「ゴージャス」僕は一瞬その空間に見惚れてしまった。

「はい、これが制服」とオレンジのシャツにグリーンのタスキのようなものがかかったデザインのシャツを渡された「だせえ」と思ったがそれを呑み込み黒い寸足らずのズボンも渡され

狭い更衣室に案内され、僕は着替えた

「お、似合うねえもう少ししたらダンサー達が来るからまた紹介するけど

その前に下に降りてこのビラを通行人に配ってきて」と紙袋を渡された

そのビラは店の宣伝のビラでドリンクチケットが二枚ついていた

「わかりました」と僕は下に降りようとした

「あ、ちょっと」と紳士に呼び止められ、「ビラ配りサボったらだめだよ」とまた念を押してくる紳士に対して

僕は何故か不気味さを感じた。

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