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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第一章 挫折

第三話 N極とS極の法則

「おいおい、おめえがドル箱持って行ったら俺達まで手伝わなきゃならないだろ」

「別にええやん、俺ら若いねんから

持って行ってあげれば」

と、僕より歳が二つ上の

タカハシをキッと睨んだ

彼は目を逸らしながら

「俺は、嫌だからな」とぶつぶつ言いながら

ハンドマグネットキャッチャーで玉を拾って

空き台に球を入れ込み

ハンドルをまわして遊んでいた

奴とはウマが合わない

今の僕の仕事は

東村山駅から

徒歩十分くらいの距離にある

パチンコ 「ヒカリ」のホールスタッフだ

ここはチェーン店ではなく

個人で経営していて

CR機が無い

今時珍しいパチンコ屋で

お客さんが積み上げたドル箱は

お客さん自ら運んでいく

セルフスタイルになっている

時給は千円で

パチンコ屋のアルバイトでは

かなり楽な方だと思う

なんせ店員が

ドル箱を運ばないのだから

社長は「掃除さえしてれば良い」と

僕らに口酸っぱく言っている

僕も不思議になるくらい

玉運びよりも掃除

若い僕には

なんだか物足りない仕事だった

メンバーもホールには正社員の

五十代の古株キクチさんとカネモトさんの二人

カウンターにも

これまた五十代の古株 ハットリさん

そして アルバイトのタカハシと僕

この人数でまわる

パチンコ屋なのだから

忙しいはずがなかった

僕は 古株の二人と

タカハシの静止を断り

お客さんのドル箱を運び続けた

いつのまにか

馴染みのお客さんとも仲良くなり

毎日来ている、ばあさんなんかは

自家製の胡瓜の糠漬けなどを

「これ、家に持って帰って食べな」と

くれるくらい

この狭い世界で可愛がってもらっていた

ある日、ちょっとした事件が起こった

見慣れない三人組が

羽根モノの台に並んで座り

ずっとキョロキョロして打っていた

僕も「招かれざる客」だなと

警戒していると

一人の男が磁石を出し

玉を誘導して

スタートチェッカーに入れてるのを発見した

そう、彼らは

「ゴト師」だった

ゴト師とは不正な方法で出玉を獲得する

イカサマ野郎のことで

僕は

一人の肩を叩いた

その瞬間二人は気付き

一目散に逃げて行った

僕はその男を

後ろから羽交い絞めにしたが

暴れる男の後頭部が僕の鼻にあたり

その手を放してしまった

男も先の二人に続き

狭いホールを全速力で駆け抜け

逃げて行ってしまった

他の正社員も気付いたが

古株組が

「追いつくはずがない」

「逃げやがった」とキクチさんが

僕に近寄ってきて

「おい、大丈夫かよ?

いきなり後ろから羽交い絞めにする

馬鹿がいるかよ

おめえ刺されなくて良かったよ」と

僕の頭をポンポンと叩いた

社長が通報したので警察も来て

僕は軽く現状を報告した

金銭的な

被害も出ていなかったので

あとは僕に「被害届だしますか?」と

警察が訪ねてきたが

僕は 面倒くさくなって

「だしませんよ、たいした怪我じゃないので」と鼻をおさえながら言った

実際強がっていたが

内心は悲鳴をあげたいくらい痛かった

翌日のヒカリは

また「いつもの」ヒカリに戻っていた

僕はせっせとドル箱を運びつつ

常連のお客さん達に「昨日は災難だったねえ」と

「同情」された

閉店して掃除をしていると

「おーい、集まってくれ」と社長が言うので

皆、掃除を止めて

カウンター前に集まった

「昨日は未遂に終わったが

大事なバイトの子に怪我させちまった

おめえらもぺちゃくちゃ喋ってねえで

今後はもっと警戒するように頼むよ」と社長が皆に言う

「じゃ、ボーナス渡すわ」と茶封筒を取り出した

なんとその日は正社員三人のボーナスの日だった

「え~~と功希、ちょっと来な」と

何故か僕も呼ばれた

「臨時ボーナスだ、事務所のカメラでいつも

見てるがおめえ毎日ドル箱運んで

たいしたもんだよ

昨日もよく未遂で終わらせてくれたな」と

人様にあまり誉められたことのない僕は

純粋に嬉しかった

「俺はな、見えねえ所で頑張る奴が好きなんだよ」と

強面の社長が優しい笑みで

僕に茶封筒をくれた

「タカハシ、おめえも功希くらい頑張ってたら

ボーナスやったのにな」と、じろりとタカハシを見つめた

僕はタカハシのかすかな舌打ちを聞き

社長の真似してじろりと見つめ

嫌味に無言の笑顔をプレゼントしてやった

「おい、功希ボーナス入ったから

呑みにいくぞ」と古株三人に誘われ

「僕、未成年っすよ」と笑いながら

三人に付いて行った

タカハシは来なかった

東村山駅前の居酒屋に入り

「いや~おめえさ

最初はめんどくせえ奴が入ってきやがったと思ってたけど

わけえのに大したもんだな」と

カネモトさんが言う

「そうですか?誉めてくれてるんですか?」と

僕は悪戯に笑いながら

グイッとビールを呑みほした

「おめえはよ、俺らみたいになっちゃいけねえ

この歳になって

俺らみたいに

消したい過去のある人間に

絶対になるんじゃねえぞ」と言う

「やっぱり皆さん、なにかあったんですか?カタギに見えないですもんね」と僕はまた悪戯に笑った

「まあな、色々あったんだよ

そしてあの社長が拾ってくれたんだ

頭あがらねえわ、あの人には」と

ハットリさんが二人の顔を見る

二人もしみじみ頷く

「なにがあったか聞きませんけど

社長に恩があるわりには

全然働きませんよね」と

酒がまわってきた僕は調子に乗って

三人に笑いながら言った

「ほんとに生意気だよおめえはよ」と

三人も僕につられて

笑った

双方の警戒心という名の

見えない糸が切られた瞬間だった

そして

僕はようやく

この三人の事を

「好きになった」

その翌日

キクチさんが

常連のばあさんの

ドル箱を「しょうがねえな」と

言いながら

運んでいる姿を見て

僕は 「クスリ」と笑った

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