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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第一章 挫折

第五話 出口なきトンネル

この区役所通りは、様々な人が通る

僕は人間観察をしながら、通る人に

ビラを配った 「お願いします」と渡そうとするものの 殆どの人が チラシに・・・いや僕に興味が無い人達ばかりで、無視される。それでも僕はやっている「フリ」をしながら「お願いします」と通行人に機械的にビラを渡す素振りをしていた。「おい、にいちゃん」とふと振り向くと いかにもな男が僕に話しかけてきた、「なんだよおめえその配り方は」「ハイ?」と生意気にも僕はその男を「なんか文句あるのか?」という気持ちを込めて睨みつけた、その男はイキナリ僕の髪の毛を掴み「ハイ?じゃねえんだよ真面目にやれって言ってんだよボケ」と僕をさらに威圧してきた。「あ?誰だよあんた?」と僕は「コイツタダジャオカネエ」と掴みかかった、「社長だよおめえに給料払う」と僕の手を振り払った

「え?」一気に僕の高まった感情はしぼんでいった、「新人が入ったとエグチに聞いたから見に来たら案の定やる気のねえ素振りで仕事しやがって世の中舐めてたらただじゃおかねえぞクソガキ」と「社長」は僕に説教してきた「やる気ねえなら、帰れクビだ」と一時間で解雇を、言い渡された僕は急に格好悪くなって、「すみませんでした真面目にやりますので」と「社長」の目を真っ直ぐに見ながら謝罪した

「おめえがそう言うなら、一度は信じてやるけどよ、次やったら許さねえよ?」と言う まだ若いこの「社長」に「わかりました」と答えた

丁度下に降りてきた紳士が

「どうしました?」と社長に尋ねる

「どうもしねえ、生意気な若いのが入ったみたいだから期待してるよエグチ」と言い、去って行った

「君、社長の洗礼受けたんだね?」とエグチさんは僕に言う

「え?」「ウチはね、こんな商売だろ?トラブルも多いし、やる気のない人はいらないからいつも初日に入る男性のアルバイトを、こうしてテストしてるんだ」と言う

「そうなんですか・・・・」僕は感じる違和感を押し殺しながら平静を装った、「君が見た通りこの会社の社長はそういう人だからさ、キチンとやってよ、真面目にさえしてくれれば割の良いバイトだと思うけどね」と僕が知らなかったこの世界の住人達はいきなり僕に先制パンチを浴びせてきた、ジャブでもストレートでもなくそれは強烈なカウンターパンチだった。

「じゃ、ダンサー達も来たので上に行こうか」と「エグチ」は僕を上へと案内してくれた。まるでこの世界の案内人に見えて、僕はやはりこの男が不気味で仕方がなかった。

「今日から一緒に仕事してくれる、アルバイトの功希君、みんなよろしくな」とエグチは僕を楽屋に連れて行ってくれた、「あらあ、かわいいおにいさんいくつ?」「十八歳っす」「えーかわいい」とその「おっさん」は言う「わたし、ダンサーのヒカルですよろしくね」「はい、よろしくお願いします。」「みんなきてーピチピチの子が入ったわよ」とそのおっさんは「皆さん」を呼んだ、僕は戸惑いながら

「よろしくお願いします」と顔を赤らめた、初めて見る世界の住人達は

十代の僕には刺激が強すぎた

ニューハーフというと聞こえが良いが

本当に皆、女性の言葉を使う

「オッサン」なのだ、「なになに、新人?」とようやくニューハーフらしき人が一人現れた 「綺麗な人だな」と僕はその方を見ていると

「キャサリンよ、よろしくね」と彼女は言う、「よろしくお願いします」と僕も答えると、エグチが「キャサリンは、女性なんだよでも舞台ではニューハーフとしてやっている、お客さんに聞かれても君もキャサリンはニューハーフです」と必ず答えるようにと僕に念を押してきた。

「理不尽なルールだらけじゃねえかよ」と僕は嫌気がさしたが

「わかりました」と答えた。

「功希君はいくつ?」とキャサリンが尋ねるので「十八歳です」と答えると

「あら、私と一つ違いじゃんよろしくね」と大人びたキャサリンが

僕と歳が変わらない事に驚いた

それを察したキャサリンは

「この街に居ると、こういう雰囲気になるのよ」とまた楽屋の奥に戻って行った。

アルバイトリーダーのハラダさんが

僕に「慣れれば、どうってことない仕事だけど、社長に目をつけられないようにね、あの人は本当にやべえから」と僕に言うが

心のなかで「もう遅いです・・・・」と僕は嘆いた。

お客さんが続々入り

まるで先日のワンマンライブの時のように、アルケミストも「ハジマル」前の独特の雰囲気になっていた。

まずボトルと料理がセットになっていて、水割りセットを僕は客席に運ぶ

フードはおつまみ程度の軽食で

追加で高額なフードを頼んでもらおうというシステムだ。

「新入りかい?」ボトルを持っていったその先の男が僕に話しかける

「はい、今日からです宜しくお願いします」と言うと 「頑張りな」と僕に折り畳んだ一万円をくれた

僕は驚いて「いえ、いただけないです」というと「なんだ、チップも、知らないのか?貰って良いんだよ」と言うので、とりあえず「ありがとうございます」と席を離れ、ハラダさんに「一万円貰ったんですけど」というと

「これがこの仕事の醍醐味、貰っときな、でも一万円は多いね、良かったじゃん」と僕に教えてくれた、一日の日給分に近いオカネを初対面の男に貰った事に僕は驚きを隠せなかった。

いよいよ、ショーの本番

ダンサーのヒカルさんが僕に合図する

僕は急いでカーテンを開ける

カーテンを越えた「彼女達」は

とても「美しく」みえた

僕は見惚れてしまい、また彼女達が戻ってくるとカーテンを開けて迎えいれ

衣装チェンジを瞬時にすませた彼女達がまた戻ってくる

そしてヒカルさんが僕の目を見て頷く

僕はカーテンを開ける、その合図で

大勢の「夜の蝶」が羽ばたいてステージに向かう。

約ニ時間のショーが終わり 蝶が戻ってくると 蝶は「オッサン」に変化していた。「どうだった?私たちのショーは?」とヒカルさんが尋ねてくるので、僕は本心で「めちゃくちゃ感動しました」と述べると、ヒカルさんはそっと僕をハグして「ありがとう」と言う、汗だくのヒカルさんはやはり

「オッサンの匂いがした」すると

キャサリンが妖艶な衣装を纏い

「さあ、今日の締めくくりよ」と

このショーはアンコールでキャサリンが出演する段取りになっているらしく

慌てて僕はカーテンの前に立ち

キャサリンの合図を待った

「行ってくるね」と客席という花畑にアゲハ蝶が羽ばたいて行った。

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