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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第一章主な登場人物

僕・・・・大阪府出身十八歳フリーター ERRORというバンドのボーカル

 トモヨシ・・・千葉県出身十八歳 フリーター ERRORのギタリスト

ふるさとの大将 久米川駅の食堂ふるさとのオーナー 五十歳そこそこ

エグチ・・・ショーパブ アルケミストの雇われ支配人 四十二歳

社長・・・アルケミスト社長 三十歳

ヒデキ 謎の歌舞伎町の住人 十九歳

第一章 挫折

第六話 雑踏の中の一人

高田馬場のライブハウス「シルキー」にトモヨシとブッキングスケジュールに行った帰り「でもさあブッキング半年後とか、相当人気あんだね、あの箱」「そうやなあ、しかも前座やで?」「ま、ここから昇っていこうよ御茶ノ水にエフェクター買にいくから付き合ってよ」「だめだ、今からバイトなんだわ」僕はトモヨシと楽器の町、お茶の水に行きたくて一瞬バイトを休んでやろうかと思ったが、グッと堪えた ポケットの中のセブンスターを取り出すと同時に トモヨシも僕のセブンスターを無言で一本取り上げた

僕は気にすることなく 古びたお気に入りのZIPPOで火を着ける トモヨシも顔を近づけてきて そのライターで火を着ける 「フー」と空を見ながら

「俺、ホストなるわ」とトモヨシは空を眺めたまま 僕に言ったのか独り言で言ったのかわからないトーンでつぶやいた

「マジで言ってんの?」 「ああ、色々考えたんだけどさ、歌舞伎町のホストクラブの面接行ってくるよ。練習後でも行けるしさ、お前も歌舞伎町で働いてるし丁度良いかなって」 「そうかあ、互いに金無いしなあ、頑張るかあ」

「ああ、パッと稼いでパッと辞めるよ俺らには夢があるしな」 「夢を実現させるって辛いもんやなあ」

「だな・・・・・」

「じゃ、俺バイト行ってくるよ、また決まったら教えて」と僕は高田馬場の

BIGBOX前で奴と別れた

何故だか、西武新宿駅までの一駅が、かなり長く感じた。

アルケミストまで、どう辿り着いたか思い出せない程、僕は考え事をしながら歩いていた。

店につくとハラダさんが

「はい、チラシ」と意地悪な顔で

僕に渡してきた「わかりました」と僕はまた区役所通り前で

「前よりも」元気にチラシを配った

「お願いします」とチラシを渡した僕と歳があまり変わらない程の男性が

一度通り過ぎて、また戻ってきた「おにいさん、ここでよくチラシ配ってるね」

「そうなんですよ、お願いします」と愛想でこたえた

「どんな店なの?」「そこのショーパブですよ」とチラシ見りゃわかるだろ

と僕は思いながら 笑顔を「ツクッタ」

「稼げるの?」 「はい、まあ」と不審に思いながら答えると

「良いバイトあるよ」と僕に言う

「なんすかそれ?」と聞くと「ここじゃ、なんだから興味あるなら話しするけど」と

上から言いやがるので

「今、稼げてるので」と断った

「そう?俺いつも歌舞伎町にいるからまた声かけるわ」「はあ・・・・」

「お兄さんいくつ?」「十八歳です」「俺と変らねえな、俺十九歳」と人懐っこく話してくる

「名前はヒデキって言うんだ

よろしく、おにいさんは

名前なんて言うの?」

「功希って言います、あの、バイト中なんであまり立ち話ししてると

社長に怒られるので」とあの「社長」の顔がチラついた「ごめんごめん、じゃまたね」と

ヒデキは握手を求めてきた

その手を愛想で握り返し

彼の容姿を初めてちゃんと見ると

ディッキーズのインチアップさせた

チノパンを腰で履き

チェックのシャツをパンツインにして

こんがり日焼けした顔に

襟足だけを伸ばしオールバックにしたその姿は

「ダークの匂い」がプンプンした

チラシ配りを終え

アルケミストに戻ると

ハラダさんが

丁度水割りセットを作っていた

ダンサーのヒカルさんが ステージで

今日歌う歌の練習をしていた

曲は徳永英明の「最後の言い訳」だった「うめえなあ、ヒカルさん」と僕は

このオッサンの歌唱力に

いつも聞き惚れていた

ステージを降りてきたヒカルさんが

「ねえ、功希ちゃんバンドのボーカルやってるんでしょ?」と尋ねてくるので僕は、ハニカミながら

「はい」と答えると「聴きた~い功希ちゃんの歌」と突然言ってくるので

「いえ、僕は歌というより叫んでるような音楽なんで無理っす」と答えたが 一度スイッチの入ったヒカルさんは

言う事を聞かない

「なにか歌ってよ」と言うので

「何、歌えば良いですか?」

「何歌えるの?日本のポップスが良いわ」と言うので

「じゃあ、東京に上京したので折角だから、やしきたかじんの東京なんてどうですか?」

「え?誰それ?知らない」

「え?たかじん知らないんですか?」と僕は驚いた

「知らない、大阪の人?」

「そうです、大阪では有名ですよ」と答えると

知らないけど聞きたいと言う

大阪に居る時、母が営むスナックで

上京前によく歌っていた事を思い出し 一瞬 大阪が恋しくなった

「ハラダ君 その東京って曲入れてよ」とヒカルさんは

ハラダさんに言う

「あ、ありました東京ですね」と

ハラダさんがカラオケの機械に

リクエストしてくれた

ステージに上がると

ライブハウスとはまた違う

景色がみえた

僕が歌っていると 続々ダンサーが集まってくる

目の前の席でキャサリンが僕に

ガッツポーズをして僕を茶化すので

僕もおどけて

ガッツポーズを返した

歌い終わると

ヒカルさんが「めちゃくちゃ良かったわよ、あんたもステージ立ちなさい」と言うので僕は「無理ですよ無理」とスイッチ入られたら大変だと思い

丁重にお断りした

「やしきたかじんって初めて聞いたけど、良い歌ね」と

ヒカルさんが言うので

「良い歌なんですよ」と僕は答えながらハラダさんの仕事を手伝い

夜の蝶はステージに向かって行った

バイトが終わり、階段を降りると

「お疲れさま」と

ガードレールに座っている

チーマー風の男が

声をかけてきた。

僕は街頭のタヨリナイ光で

その男を見ると

夕方、絡んできたヒデキだった。

「ちょっと話ししようよ」と言うので「終電行っちゃいますし疲れてるんで」とこいつに関わったらロクな事がないと、嫌な勘が働いて、早足で

西武新宿駅を目指した

「待ちなよ、つめてえなあ」と僕の肩を掴むので「なんすか?」と言うと

「少しだけ聞いてよ」と、手を合わせてきた、僕は「ほんと、終電あるんで」と強く言うと 「じゃあさ仕事無い日いつ?」 「明日はバンドの練習だけなんで、明日やったら」 「バンドやってんだ、ぽいね」「明日何時終わるの?」 「七時くらいかな?」 

「わかった、ピッチ持ってる?」 「持ってねえっす、そんな金無いんで」と言うと、「わかった、じゃあ七時半にコマ劇前で良い?」と言うので

「わかりました」と僕は渋々承諾した。 バンドメンバーしか友達が居ない僕は、なんだか胡散臭いこいつと

友達になりそうな予感もして、少し

「ワクワクした」

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