LOG IN

ゲンバビト

by 加藤 いさお

第一章 挫折

最終話 明け方のカラス

僕は独り、薄暗い駐車場で

セブンスターを吸いながら

とても大切な事を思い出した。

「やばい、おかみさんの誕生日・・」

昨日大将に「顔出すよ」と

言ったのにも関わらず

ドタキャンしてしまった

悪い事をしたなと

良心の呵責に苛まれながら、

「何やってんねん俺」とビリビリに破れた血まみれのシャツを見て自暴自棄に陥った。

フワフワと、そうフワフワと流れる浮浪雲はずっと曇り空を彷徨っている

梅雨前線が停滞するかのように

その雲はいつのまにか

この限りなくクロに近い空に描かれたキャンバスの中で風が運んでくれるのをじっと待っている。

風頼り、人頼り、今この雲はフラストレーションという負のチカラで一杯になり

大雨を降らす寸前にまできていた。

「おい、功希大丈夫か?」

服を買いに行ったトモヨシが戻ってきた「これ、買ってきたよ」と

黄色のビニールのショップ袋を

僕に手渡した

「ありがとう」と僕は留められた

テープを剥がさずに袋を

無理やりこじ開けた

黄色のビニール袋は

ところどころに引き裂かれた圧が

加わって白くなっていた

中身を取り出すと

グレー地に読めない筆記体で書か

れた赤いワッペン付きの半袖のワークシャツだった。

「お、お前にしては趣味良いシャツじゃん」

とシャツに付けられた

バーコードタグを引きちぎり、

僕はボロボロになったシャツをその場で脱いでワークシャツに着替えた

「似合うじゃん」

「まあ、俺はなんでも似合うんだよ」とおどけて言いながら、心は乾ききっていた

「なあ功希、本当に悪かったよ」

「別にいいけどさ、お前これからどうすんだよ?」

「まあ、少し考えてみるわ」

「そっか、もうおまえ

歌舞伎町に近づくんじゃねえぞ」

「ああ、二度とごめんだよこんな所」

「結局お前が悪いんだけどね」

「わかってるよ」

「じゃあ、俺帰るわ」と、僕は立ち上がって

ジーンズメイトの黄色の袋に

さっき脱いだシャツを入れ込み

力なく歩き出した

 トモヨシの視線を感じながらも

僕は振り向く気力さえ失われていた

「ムキリョクダ」

むわっとする朝方の湿気と明け方の

カラスの鳴き声が

ビルのコンクリートの壁で共鳴し合い

「朝は、希望に満ち溢れているものだ」と偉い人が言ってた事を

この街は

真っ向から

全否定しているような気がした

改札に入る前

持っていた黄色の袋を丸めて駅のごみ箱に捨てて、僕は冷房の効いた発車待ちの電車の中で昨日から今日にかけての出来事を整理した

パチ屋のバイトが

終わったところまでは

いつもの日常だった

おかみさんの誕生日を忘れていた事で

僕はトモヨシの呼び出しを了承した

幸せな一日の終わりを選べず、自ら

とんでもない一日を選んでしまったのだ

「アホやな俺」と僕は

まだ誰も乗っていない車両で

この世界に自分しか存在していないかのような虚無感を感じながら

独りつぶやいた

電車の発車ベルが鳴り

急行本川越行が走り出した

やはり、車両には僕「独り」だった。

第一章 挫折 完

OTHER SNAPS