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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第二章 呵責 

第二話  異次元ネオン世界

「トモヨシまたバックレ?」

「ああ」

あの事件以来僕は

トモヨシと顔を合わせていない。

バンドの練習にも

一切顔を出さないので

僕から何度も電話をしているが

出る気配もない

「留守番電話サービスに接続します」と感情のない機械音声を聞くたびに

僕は嫌な予感を拭い切れなかった

「どうすんの?このままじゃ

シルキーに出れないじゃんか」と

ドラムのアツシが

スティックをクルクルまわしながら

彼なりの苛立ちを表現する。

「もしかしたらさ、このまま来ねえかもよ、あいつ」と、僕はメンバー二人に言った。

「ありえるかもね、こんなん初めてだもんね」

この前までふるさとに行けなかった自分と似た境遇だなと僕はトモヨシの気持ちが痛いほどわかり、奴が自ら動かないと解決できる問題でもないので、僕はトモヨシに任せるつもりでいた。そんな心配とはよそに

ガチャリとスタジオのハンドルが動いた

「わりい」とトモヨシが入ってきた

「トモヨシ、おまえ・・・」久々に会うトモヨシの雰囲気が豹変していた

「どした、トモヨシ体調でも悪いのかよ?」と他のメンバーも異変に気付いた

「いやあ、なんもねえんだけどさちょっとここ最近忙しくて、連絡できずに悪かったよ」

「おい、トモヨシ」 「なに?」

「おめえ、クスリに手だしてねえだろうな?」

「はあ?やるわけねえじゃんかそんなもん」

「そっか、なら良いけどよ」思い過しかと僕はそう願いながら僕一人どんよりとしていた。こういう悪い勘が外れた試しがない、神様がニンゲンに産まれながらに特別な能力を与えて下さっているとしたら、僕の能力は 「嫌な直感がやけに当たる」という

能力だろう。

「よし、久々に曲合わせしようや」とトモヨシがギターを

ケースから出しながら

マーシャルのアンプに

ジャックを挿した。

「ギュイーン」と音をたてながら

奴がそれとなく弾くフレーズが

いつものトモヨシよりも

はるかに超えたリフさばきで

僕らは呆気にとられた

「おい、めちゃくちゃ上手くなってねえ?」

「そうか?」 「なんてゆうかキレッキレなんだよ」 「それはいつもだよ」と笑うトモヨシの笑顔に何故か違和感を覚える僕は

「マリファナか?」と爆音の中奴の耳元で囁いた、バカな事を言うなとばかりにニコリとしながら一心不乱にギターを弾くトモヨシは

異常だった。

「マリファナくらいなら」と僕は願いを込めながら奴に聞いたが、反応が鈍いので

もう一度 「マリファナじゃねえだろおまえ?」と囁いた ギターの手が止まった

「うるせえよ、なんもやってねえって言ってんじゃんかよ、何なんだよおめえは」

嫌な勘があたった瞬間だった

後ろめたい事をしている人間は 痛い所を突かれると逆上してしまう、それは誤魔化しの上に無理やり成り立たせようとする「正当化」

と「防衛本能」のミクスチャーな感情で誰もが持っている厄介な代物だ。

しかし、自分もこの感情を持っているからこそ、他人の嘘を見破りやすいのも事実だ。

他のメンバーの手も止まる

「なあ、トモヨシ何があったよ

おめえあれから何してたんだよ」

「うるせえ、なにもねえって言ってるだろ」

「俺はさ、おめえのちょっとした変化もわかっちまうんだよ、

いいから話せよ」

「わかったような事言うんじゃねえ、おまえになにがわかるんだよ、みじめなんだよ俺は」

ふと僕は視線を

奴のギターケースに向けると

取っ手の部分に 先日僕がプレゼントしたペイズリーのネクタイがくくりつけられていた、たまらなくなった僕は

「なあ、トモヨシ俺らは家族みたいなもんだろ?俺らに話せなくて誰に話すんだよ

一人で背負うんじゃねえよ」

パイプ椅子に座りギターを放り投げるトモヨシ、奴の宝物のギブソンのレスポールが床に落ちた衝撃で「バイーン」と鈍い音がした。

「俺、抜けるわ」「何言ってんだよトモヨシこれからって時に」とアツシがトモヨシを揺さぶる 、天井を仰ぎ無言のトモヨシのハンサムな顔を僕はおもいっきり殴った「辞めるなら辞めろネチネチしてんじゃねえよカス」「てめえ」と僕に殴りかかる、僕はその手を振り払ってまた力いっぱい殴った

「おい、功希やめとけって」と他の二人が僕をとめる 怒りの鉄拳ではない 哀しみが混じったこの拳は青白く腫れて握ると鈍い痛みが襲った「中途半端をやめるってこの間俺に言ったよなあ、言ってる矢先にこれかよ?てめえは」「ああ、そうだよ俺はダメな奴なんだよ、おめえにはわからねえよ」とスタジオを飛び出していった

「おい、待て」と僕は追いかけた

スタジオの階段を必死でかけ上った

地上に出るとトモヨシは早稲田通りの向こう側の歩道にいた、信号が変わり

車が僕を遮る、イライラしながらただ信号が変わるのを待つばかりの僕の視界から

トモヨシが消えた

「あのあほ・・・・」僕は一旦スタジオに戻った、他のメンバー二人が僕に「いくらなんでもやりすぎだろ、殴る事ないじゃねえか」と僕に詰め寄ってきた、「あのバカは殴らなきゃ目が醒めねえよ」と言いながら

「どうするよ、バンド」と二人に言うと

「無理じゃねえのこんな状態、もう一カ月以上全員そろって練習してねえしさ」

「とにかく、あいつをバンドに連れ戻すよ」

「でもさ、トモヨシの様子おかしくねえか?」

「ああ、変なクスリに手だしてなきゃいいけど」 「どう見てもその可能性あるよな」

「あいつはそこまで馬鹿じゃないよ、とにかく次の練習にあいつを連れてくるから」と自分に言い聞かせ

「俺らもメンバーなんだからさ、手伝う事あったら言えよ」「もちろん、もちろん、ありがとう」 そして僕は先にスタジオを出た

PHSを取り出してトモヨシに電話をかけるが今度はダイレクトで留守番電話になる

「あいつ電源切ってやがる」

今のトモヨシが行きそうな場所など

さっぱり

心当たりがない

ふと一人の男の顔が僕の脳裏を過った

「まさかな?」と思いながら

僕はPHSの電話帳から名前を探した

「もしもし」

「ヒデキさん、功希です」

「お、珍しいじゃんか、嫌われちまってると思ってたから、電話嬉しいよ、どうしたの?」

「トモヨシの事なんですけど」

「うん、どうした?」

「あの日以来連絡が取れず、今日バンドの練習で一瞬会って、また飛び出してどこかに行ったんですよ、もしかして、ヒデキさんなら心当たりあるかな?と思いまして」

「マジか?俺もあの日以来会ってねえ

なんだよ、優しさ出してチーム抜けさせてやったのに、おめえらモメてんの?」

半分はあんたのせいだよと言葉が出かかったが僕はその言葉を飲み込んだ

「チーム抜けた奴とは、俺一切関りを持たないんだわ」 「そうですか」

「わるいね、またね」と電話を切ろうとするヒデキに「クスリ」「え?なに?」「あいつクスリやってるかもしれないんですよ、様子が変でした」「あいつが?それは思い過ごしでしょ」 「いえ、嫌な予感がして」

「どうせハッパで、キマッテたんじゃねえの?」

「そんな感じじゃなくて」 「お前いまどこ?」 「馬場です」 「歌舞伎町これる?」

「今からですか?」 「そう、そう」

「わかりました、行きます」 「バッティングセンターの近くにさ九龍ってスナックあるのわかる?」「いえ、わかんないっす」

「だよな、じゃあさバッティングセンター着いたら電話ちょうだい、誰か迎えに行かすから」「わかりました」

関わっちゃいけない人物に自ら電話して

会いに行くことになった僕は

気乗りしないまま歌舞伎町に着いた

区役所通りを歩いていると 後ろから「功希ちゃん」と呼び止められた

振り向くと、キャサリンだった

「あ、おはようございます」 「今からバイト?一緒に行こうよ」「いえ、今日は休みなんですよ」 「そうなの?どこいくの?」

「先輩とバッティングセンターで待ち合わせしてまして」 「へえ」

「キャサリンさん九龍ってスナック知ってます?」 「知ってるわよ、なんであんなところに?」 「流石.歌舞伎町の蝶ですね、なんかそこに先輩が居るみたいで、僕、場所わからないのでバッティングセンターまで来てもらうんですよ」と少し冗談を交えてキャサリンに言った 「あんなとこ行かないほうがいい、その先輩、なんて人?」「ヒデキって人です」 「あんた、ヒデキってバンディットのトップじゃん」「知ってます、キャサリンさんこそ詳しいですね」 「とくに区役所通りとさくら通り界隈で働いている夜の人間はほとんど知ってるわよ」 「そうなんですか、まあしょうがないですよ友達の事で相談するだけなんで」 「喰われるわよ」 「はい、もう以前に」と僕はにこりと笑った「じゃあ行ってきます」 「絶対気をつけてね」

「ありがとうございます」と僕はキャサリンに握手を求めた 握り返すそのしなやかな手からは想像できないくらい頼もしく力強いポールダンサーの

手をしていた。

バッティングセンター前で待っていると、ノシノシとクマのような男が僕に向かってきた

「功希クン?」 「はい」「自分ペコって言います」「ペコですか?」と僕は思わず聞き返した、「そうです、よろしくです」と黒人のようにドッシリとして強面のこの男がペコと名乗る事にギャップを感じた

「功希さんはいくつですか?」 「十八歳です」 「じゃあ僕とタメですね」 「そうなんだ、よろしくです」と双方のコブシとコブシをチョンと重ねた

「このビルの二階ですと、ペコの後について行った

歌舞伎町にはこのようなぼろい雑居ビルが星の数ほどある、こんな雑居ビルでも家賃は高いんだろうなと僕は考えながら

急勾配の階段を上がった

「功希さん連れてきました」 「赤で統一された空間にカウンターとボックス席が2つありヒデキは一番奥のボックス席に座っていた」

「よう」と久しぶりに見るヒデキは、以前の人懐っこい笑顔で僕を迎えた

「どうも」「みんな来て」とそこに皆を集合させるヒデキ 「彼、功希君 トモヨシって居ただろ?ウチ抜けた奴、あいつの親友」

「功希です」と僕は六人くらいのメンバーに挨拶した。「あいつ抜けるとき十五秒リンチしたの、それでさ、彼も一緒にリンチ受けたんだよ友達の為に、マゾっ気たっぷりだろ?」とヒデキは笑いながら皆に言う

「あいつの為にリンチ受けたんすか?」とペコが僕に尋ねる

「ええ、まあ、マゾなんで」と僕は笑いながら応える。 「すげえっす、自分感動したっす功希さん」とペコがハグしてくる

「功希、ペコは良い奴だよ鬼のように強えけどいつもペコペコしてんだ、だから俺がペコって名付けたの」 「そうなんですか」と僕も声をだして笑った「まあ座りなよ」と僕も赤いベルベット調のソファに座った

「それで、トモヨシの様子がおかしいって、どうおかしいのさ?」 「クスリやってる奴の独特の雰囲気あるじゃないですか、今日久しぶりに会ってその感じがしたんですよ」

「さっきも電話で言ったけど葉っぱじゃねえの?」 「葉っぱとは違う雰囲気でした、ラリってるんですけど鬼気迫るあの感じです」

「まさか?」 「俺、わかるんですよほぼ毎日あいつと一緒に居たもんで」「ほっときゃいいじゃん」 「無理ですよほっとけないんですよあいつ」 「なんでさ、彼に固執するの?」 「親友なんですよ」 「わかってるけどさ、もし、あいつがコカインや(ツメタイ)のなんかやってたとしたら、また面倒な事に巻き込まれるよ」「しょうがないっすよ、バンドもあいつが居なけりゃ成り立たないんで」

「ほんとうにお前、マゾなんじゃねえの?」とヒデキは笑いながら 「おい、ペコ、これから功希助けてやってよ」「はい、わかりました」 「功希、なんだかさ、助けてやるよなんか困ったことあったらさペコになんでも言いな」 「逆に迷惑じゃないですか?」

「いいよ、俺も気に入った奴にはトコトン尽くすマゾ野郎なんで」とニコリとしながら

僕の頬をパシパシと軽く叩いた

「じゃあ、なんかあったらペコ君に電話します」 「ペコで良いっすよ」 「なんか気遣うよ」と僕は笑いながら、またペコとコブシとコブシを重ねた。 「じゃあ、また電話します」

「功希、チームに入りたくなったらVIP待遇で迎えるよん」とヒデキが言うので

「いいですよ、リンチ痛いんで」と僕はおなかをさすりながら スナック九龍を出た

区役所通りを歩きながら

駅へ向かう途中

ポケットのPHSがバイブした

「もしもし」と僕は喋りながら

異次元のネオン街から

「外界」に出た。

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