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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第一章 挫折

第七話 分厚い財布

「どうなん?ホストの方は?」

「いや、俺に合ってねえわ

あの仕事」

トモヨシはもう辞める

オーラを解き放っていた

「そうなんや、なんかさ変な奴が

喋りかけてきて、良い仕事あるから聞いてほしい

って言ってきててさ、今から会いに行くんだけどおまえも行く?」

「なにそれ、どんな奴なの?」

「見てくれはチーマーみたいな奴」

「へえ、今日仕事無いし俺も行ってみようかな」

「お、一緒いこうや」と僕はトモヨシとコマ劇前に行った

すでにヒデキが待っていて

「お、お疲れ、誰?」とトモヨシをいぶかしげに見るので

「あ、こいつ俺の親友でトモヨシって言います

一緒に話し聞いてみたいって言うんで」

「こんちわ、トモヨシです」と

軽く自己紹介するが

「そうなんだ、一人で来ると思ってたわ、まいいや」と

あからさまにトモヨシを歓迎していない態度で

ヒデキは「じゃ、飯でもいこう」と歩いて行った

「なに、あいつやっちゃっていい?」と喧嘩っ早いともよしが

僕に小声で言ってくるので

「とりあえず話だけな」と奴を宥めながら歩いた

歌舞伎町も抜けて JR方面に歩くので

「遠いっすね」と喋りかけると

「高島屋がオープンしたでしょ?そこに行こう」と

なんとも場違いな場所に行こうとするので

「タイムズスクエアってとこですか?」と尋ねると

「そうそう。なんか良いみたいだよ」と

昨日の人懐っこい感じとは

真逆の態度なので

僕はトモヨシを連れてきたことが

そんなに

彼にとってマイナス要因なのか?と

一人考えながら

「しかし、今回の新しい曲

ええ感じやな」と気分を変えて

トモヨシに話しかけた

「まあね・・・・」と上の空なので

「おいおい、揉めるんじゃないよ」とトモヨシに言うが

トモヨシはヒデキを探るように

「高島屋なんて遠いですから、そこら辺の喫茶店で良いじゃないすか?」とあからさまに

けんか腰でヒデキに話しかける

「うるせえなあ、もう着くよ」

「うるせいって、ただ聞いただけですけどね」

とトモヨシがヒデキに言い寄る

「話し聞きに来たんじゃねえの?

嫌なら帰ればいいじゃん」と

一色触発の雰囲気で

僕らはひたすら歩いた

僕も「なんで二人に

こんなに気を使わなければいけないんだ」と考えると段々腹が立ってきた

その三人が同時に声をあげた

「すご!!」新しくできた高島屋は

なんとも近未来的でザトウキョウという感じがした

「すげえな、ハンズまで入ってんの?」と各々

様々な 感動を口に出して

少し打ち解けた

「ここのさ、レストランフロアに行こうよ」と

ヒデキがキョロキョロして

エレベーターを探した

オープンしたての高島屋は人で溢れかえっていて

僕は東京の「バケモノ」さを

再認識した

レストランフロアに着くと

「寿司食いてえ」とヒデキが言うので

僕らはひるんだ

「こんなところの寿司ってめちゃくちゃ高いですよ」と

普段 回転寿司が御馳走の僕らは

ヒデキに言うと

「そうなの?いいじゃん高くても

俺が奢るから」と僕らの中で

ヒデキは急激に先輩ぽく見えた

「いらっしゃいませ」と僕らを見た店員は

「おめえらが来るような所じゃないんだよ」と言ってるような

態度で 僕らを迎えた

場にのまれることなく「三人」と

ヒデキは指で三を作った、席に通されると「窓際空いてんだからあっちに変えてよ」とヒデキはその店員に言う「かしこまりました」と

店員は

僕らをブスっと窓際に案内した

「感じわりいな、あいつ」とヒデキがトモヨシに言う

トモヨシも無言で頷いた

オーダーを取りに来た店員が 「お飲み物は?」と聞く

ヒデキが「二人とも飲めるんだろ?」と言うので

「まあ」と答えると

「じゃあ、生ビール三つ、あとはお任せで適当に出してよ」と

大人みたいな事を言うので

僕は率直に聞いた

「おまかせって?かなり高くなるんじゃないですか?」と尋ねると

「まあね、いいじゃん美味けりゃ」とあっけらかんと言う

もしかしてヒデキは

別次元の住人じゃねえのかと

僕の奴を見る目が変化してゆく

「お疲れ」と乾杯をして

「で、話しなんだけどさ」

「はい」

「ほんとは、一人だけ誘いたかったんだけどしょうがねえから

二人でいいや」

「今さ、君らいくら稼いでる?」と

直球で聞くので

「二十万くらいですかね?」と

およそで答えると

トモヨシは「僕も、ホストを始めたところなんでそれくらいになりますかね?」と答えた

「君、ホストやってんだ、どこの?」

「歌舞伎町のクラブ センチュリーです」と答える

「あ、あそこね、キツイ? 」

「入ったばっかなんでまだわかんないっす」と言う。 「そうなんだ、あのさあ 君ら俺のチームと一緒に仕事しない」

「チームですか?」「そうそう チームって言っても 学生のノリの

そこらへんのチーマーやカラギャン(カラーギャング)もどきとは違ってさ、ちゃんとビジネスやってるわけよ バックには中国系の組織もついてるしさ」

「暴力団的な?」 「簡単に言うとそだねトラブル回避の切り札にね」

トモヨシが「仕事内容は?」

「んとね、パチンコのパッキーカードあるでしょ?」

「はい」「あれの変造を用意するからさ、ずっと打ってて欲しいんだわ

資金ゼロで大当たりでるまでずっと打つだけの簡単な仕事だよ、 儲けは半分君たちにいくよ」

「やばいですよ、それ、しかも僕パチンコ屋でも働いてますし」

「え?丁度いいじゃん」

「うちCR機入ってないんですよ」

「うそ?今時CR機入ってないとこあんの?」

「そうなんですよ、社長が頑固な人で」 頑固はあの古株の三人もだなと、僕は心で笑った「功希君さ、何処に住んでんの?」 「東村山っす」

「マジ?超田舎に住んでんじゃん

こっちに引っ越して来なよ」

「僕、気に入ってるんで東村山は

良い人が一杯居て人情の町なんですよ」

「なんだよそれ?東村山なんて、もう埼玉じゃんか、ま、俺も出身埼玉だけど」

「あと、そういう仕事できないっす

僕らパクられるわけにはいかないんで」

「大丈夫だよ絶対パクラレないから

マンイチパクられてもさ

俺ら未成年だから前科つかないしさ」

ずっと聞いてたトモヨシが見たことない高級そうなマグロを頬張りながら 「危険すぎますよ、だいたいなんで

功希に声かけたんすか?利用しようと思ってません?」

「不良は不良の匂いにひかれるんだよ

どう考えても俺らと一緒の匂いすんじゃん」

「全然違いますよ、僕らはバンドを

一生懸命にやってるだけで、別に悪い事もしてません」

とトモヨシは打ち解けかけていたヒデキを突き放した

「ふーん俺の見込み違いかな?

でもさ、カネいるんでしょ?」この言葉に僕はゾッとした

おそらくトモヨシも同じ感情だろう

僕ら以外の周りのテーブルは

出勤前のホステスと金持ちのオヤジや

新しいもの好きな金持ち彼氏とよろしくやってるオシャレカップル

そんな人たちが集うこの場所で

このテーブルだけは

ダークな色を放っていたと思う

「俺らみたいなバカがのしあがって行くにはまずカネでしょ?

いくら綺麗ごと言ってても

結局カネが無いガクレキの無い奴は

おめえみたいにビラ配ってんだよ」と吸ってる煙草を

僕に向け正論のような嫌味を言いやがる

「パッキーカードが嫌ならさ、お金の取り立てみたいな事もやってるけど」「なんすかそれ?」

「ウチはさ、金貸しもやってるの、今テレビでやってるじゃん

ダンサーが踊ってて最後カネ貸しますみたいなの」

「ありますね」「あんなナマッチョロイものじゃなく

カネを借りる方も貸すほうもソッチ系の奴ばかりで相当気合入ってねえと

できねえ仕事だけど瞬時に稼げるよ」

「それは違法なんすか?」

「まあこれも違法だけどね、利息が

半端ねえんだ十日で一割の利子」

「それ、聞いたことありますよ南の帝王と同じじゃないですか」

ヒデキはくすりと笑いながら「あれはドラマでしょ?こっちはリアルにやってるんだよねドラマみたいに借りたやつに情なんかかけた日にはこっちが喰われるよ」まだ十九歳のガキが全てを悟ったような話しかたをするヒデキに

「そんな金利で誰が借りるんですか?

皆、有名な金融屋からキャッシングとかするでしょ?」

「それでもみんな借りるんだよあの町では、ワケありが多いんだよ」自分を大きく見せたい若さゆえのハッタリだと、僕は思い

「結局あんた一体なにやってんすか?」と僕はずっと聞きたかった事をようやく口に出しハッタリを見抜いてやろうと思った。

ヒデキは吸っていた煙草のフィルターが目一杯のところにくるまで

おもいっきり吸い込み

「俺か?中国系のヤクザの組長の息子だよ、だからって親のスネかじって

のほほんと生きてるわけじゃねえ、俺は俺でプライド持ってやってるからさ」なるほどハッタリじゃねえなこれは、こいつは関わったらいけない奴だと僕のセンサーが働き

「俺、降りるわ」と僕は即座に言った

しかしトモヨシが

「取り立てなら俺にもできるかも

短期間で稼げるんですよね?」

「おい、お前なに言ってんの?」

「バンドの為にカネがいるんだからさ

ホストは俺に合ってねえし、変造パッキーカードを使ったセコイ真似なんかしたくねえ、でも取り立てなら

金返さない奴が悪いんだからさ

それを取り立てる「くらい」なら俺にもできるでしょ」

トモヨシはもともとガキの頃からずっと空手をやっていて、

十代の全国大会で

準優勝しているくらい

腕っぷしには自信がある、

自らふっかけるのではなく

絡まれた奴に対しては喧嘩っぱやい

その得体の知れないガラスの自信がトモヨシを動かしてしまった

「功希、おめえはやる必要ねえよ、おめえはおめえの仕事

頑張ってたら良いのだからさ」

「もともとおまえを誘おうと思ってたけどまさかトモヨシクンが興味を持つとはね

でもねひとつだけルールがあるんだ」とヒデキが言う

「取立てするなら、トモヨシクンにはウチのチームに入ってもらう」

「やめとけってトモヨシ、てかあんた

もっといるでしょ?俺らじゃなくて」

「決めるのはトモヨシクンなんで

おめえはだまってて欲しいな

これ俺の名刺

その気になったら連絡してよ」

僕は同じくらいの歳の奴が名刺を持っていることにも驚き、それと同時に

ヒデキの裏の顔を

目の当たりに見た事で

トモヨシを連れてきたことを

心の底から

後悔した。「お会計」と店員を呼び

おもむろに財布を取り出す

ヒデキの財布にはいくらあるかわからないほどの

一万円札が入っていた

「こいつ、これを見せるために俺らを・・・・」と、ヒデキの意図が

わかった

わざわざ、高級寿司屋に連れてきたのも、財布をわざとらしく見せたのも

「おめえらも稼げるぞ」と自らの

ゼスチャーで見せる

ヒデキの作戦だったのだ

PHSではなく携帯電話を取り出し

誰かに

「迎えにきてよ」と電話をして

僕らは高級寿司屋を出た

「悪い話じゃないしさ、まあゆっくり考えなよ」と

トモヨシを煽った

「あと、功希君、君もね」と

昨日の人懐っこい笑顔ではなく

僕には不敵な笑みに見えて

背筋がぞっとした、こいつは俺らなんかと住んでいる場所が違う

「あ、いたいた君らも乗ってく?送るけど」

とヒデキはファイヤーパターンの

アストロのドアを開けた

「遠慮しときます、歩いて帰るんで」

「そう、じゃお疲れ」と低い音をたててアストロは去って行った

歌舞伎町のコマ劇前では奴は「一人」で待っていた

しかし、今奴は運転手つきのアストロで帰っていった

あいつは頭がキレやがる、最初は俺らと同じ目線で近づいてきて、正体を明かすと圧倒的な差を見せつけやがる

「おい、トモヨシ、なにとち狂ってんだよ」

「あいつやべえな、俺はあいつを利用してがっぽり稼いでやるよ」

「バカ、住む世界が違いすぎるんだよやめとけって」

「大丈夫だって俺はバカじゃねえよ」とトモヨシは僕の肩を組んできた

「あのアストロ超渋いな」「まあな」

「じゃ、功希、俺JRで帰るから」

「おう、トモヨシ、マジで・・・・」

「わかってるよ、じゃあな」

僕はトモヨシの背中が「見えなくなるまで見送った」

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