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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第二章 呵責

第六話 救いの重低音

ガツンと予想が当たった時

「ほれ見たことか」と

とてつもない優越感に浸れるはずが

今の僕は

とてつもない絶望感に襲われている

笑いたくもないのに

ナチュラルに出やがる

乾ききった笑い

「それなに?」わかっているのだ

頭ではわかっているし、答えなんて求めていないのに自身が発した言葉の

薄っぺらさが余計にぼくを奈落の底に

突き落とした

「功希、見りゃわかんだろ?」

「わかんねえよ」

ボクノナカデナニカガキレタ

そいつを大切な存在だと

思えば思うほど

裏切られた時の反動で

それは

大きな怒りに変わってしまう

蓄積された疑念、信頼 信用ソレを全て怒りに変換した僕は

我武者羅に

トモヨシを殴った

誰も止めに入らない

「功希、もう戻れねえ、すまねえ」

手が止まった

考えたらおかしな話じゃないか?

腕っぷしの強いトモヨシが僕に

無抵抗な理由を考えもしなかった

最大限にまで分泌したアドレナリンが

しぼんでいった直後に

拳に激痛が走る

折れてるなこりゃ

「親友に殴られてどんな気分だよ?」

「何も感じねえ」

「いつからだよ、そんなもん使ってるのは?」

「そんな事おめえに言う必要ねえよ

俺とお前は別世界で生きてるんだよ」

「なんで、お前・・・・」

「俺はお前をいつもめんどくさい事に巻き込んじまう、わかっちゃいるけど

直らねえんだわこの性格、

だったら俺の方から消えちまおうと思ってさ」

「だからってヤクに手だしていい訳ねえだろうがボケ]

「俺もわかってるよそんな事くらい」

二人の会話を

「ゴォーン」と

大地を揺らす重低音が遮った

ファイヤーパターンのアストロが群れの前に停まった

「おいおい、ペコから連絡がきて慌てて来てみりゃ

なんの騒ぎだよこれ」

「あれ、トモヨシまたリンチにあったの?おめえも懲りないねえ」

「うるせえよ」

「なんでこんな胡散臭い奴らとつるんでるの?」

「なんだとてめえ」

「あ?お前誰に口聞いてんの?

トオルに言っときな

ウチのかわいい元メンバーは俺が預かるからさ

今度手出して来やがったら黙っちゃいねえよってな」

「わかってんのかてめえら?お前らプッシャー軍団が

ウチに喧嘩売って良いんだな?」

凄むペコに刃向かう事ができず

意識を取り戻した其の一と

戦意喪失の其の二は誰にも聞こえない口調で

ゴニョゴニョと何か言いながら消えていった

「さて、トモヨシ行こうか?」

「どこにだよ?」

「おめえの事情聴取だよ

お前はどうなったって良いんだけどさ

功希に頼まれた事だから

放っておけねえじゃん?」

「ヒデキさん、二人で話させてください」

「あーダメダメ、お前は知らないだろうけどさ

こいつがつるんでる奴らかなり面倒くさいんだわ

お前で解決できる問題じゃねえぞ」

「あいつら、この辺仕切ってる売人グループですよ」

「おい、トモヨシ、なんでそんな奴らとつるんでるんだよ」

「そんなもん俺の勝手だろうが」

「な?功希、お前の友達想いなそのアマったるい性格にこいつは

寄生してるのさ、パラサイトだよ」

「とにかくお前ら乗れ」

半ば強制的に

アストロに詰め込まれた僕らは

九龍ビルの前で降ろされた

ボックス席の上座にヒデキ

その横にペコ そして僕

「さて、トモヨシ何があった?」

「あんたらにリンチ喰らってチームを抜けて俺なりに考えたんだ

功希をこれ以上面倒くさいトラブルに巻き込みたくないって」

「おいおい、お前が勝手にトラブって

俺らがケツ拭いたんだろうがよ

責任転換するんじゃねえよ」

「何も功希までリンチする事ねえじゃねえかよ」

「俺はさ功希を試したんだよ、俺自ら

こいつをチームに誘った

理屈じゃねえ感じる何かをさ

実際俺の思った通り

自分を犠牲にしてまで

お前を守ったじゃねえかよ」

「なんなんだよあいつら?」

「偶然コンビニで会った

地元の先輩があのチームのメンバーで

稼げるからって言って

俺にパケをくれたんだよ 上物だから

一回試して

気に入ったら一緒に仕事しようって」

「で、試したのかよ?」

「ああ・・・・あれをキメながらギター弾くと全てがエコーになって聴こえてきやがんだよ

疲れも感じねえし」

「で、おバカなトモヨシクンはどっぷり浸ちゃったのね」

「それでプッシャーになっちまったのか?呆れたバカだねえ」

「俺は、もう、どうでも良いんだよ」

「今からでも遅くねえ

キッパリクスリやめろ、俺はお前をほっとけねえ」

「そうだねえ、この短期間で

まだ骨のずいまでしゃぶられてねえだろうから今すぐやめろ」

「やめられる自信がねえ」

「バンドどうするんだよ?おめえがいなけりゃ何もできねえんだよ」

「さっきから聞いてりゃ、お前自分勝手すぎるじゃねえか

功希さんのために一回男になれよ」

「トモヨシ、ほら」

セブンスターを一本渡して火をつけた

「すまなかった」

プライドの塊のトモヨシが

素直に僕に謝った

僕はそれで充分だった

「おい、俺にも火着けろよ」

折れた拳でタバコを持つと小刻みに震える

「殴りすぎて拳折れてるなこれ」

「ああ、好き勝手殴りやがって

いつか仕返しするからな」そう言いながら笑う仕草は

僕の知っているトモヨシに戻っていた

「さあ、トモヨシここでヤクを抜かなきゃ

男じゃねえぞ、もしお前がまたヤクに手出しやがったら

その時はウチのペコに殺されるよ、こいつも功希信者だからさ」

「わかってる、もう迷惑かけねえ」

「だけどさ、トオルって野郎はかなりキレてやがるから

おめえら当分歌舞伎町に近づくんじゃねえぞ」

「そんなに、ヤバイ奴なんですか?」

「ああ、平気で人を刺してケロリとしてる奴だ」

「なあ、トモヨシ?」

「ああトオルさんは

ヒデキさんとはまた違ったヤバさがある、どこかネジがぶっ飛んでるんですよ」

「関わりたくないですね

でも、僕バイトあるんですよね」

「そうだね、この辺歩く時はペコか俺と歩くべきだね」

「大丈夫ですよ、僕は」

「えらい自信だね、群れてきやがると太刀打ちできねえぞ」

「そうですね・・・・・」

「とにかくトモヨシ絶対にトオルに関わるんじゃねえぞ」

「わかってます」

見えない緊張の糸がぷつりと切れて

張りつめた空気が一気にゆるやかに変化した

「とりあえずは解決したってことで

功希さん明後日ブランキーの無料ライブあるの知ってます」

「え?マジ?無料?」

「代々木公園でやるらしいんですよ、パーっと行きません?」

「行きたい、しかも明後日、俺オフだわ絶対行くよ、トモヨシも行くぞ」

「ああ、その前にバンドの奴らに詫び入れてえよ」

「そうだな、明日スタジオ予約入れとくからみんな集めるわ」

「悪いな」

「ヒデキさん、ペコ、本当にありがとうございました」

「いいよ、いいよ俺ら友達だろ?そのかわり俺らが困ったら

助けに来いよ」

「それが一番面倒くさいっす」

「言うねえ、俺はブランキーに興味ないから行かないけど

ペコと仲良くしてやってくれよ」

「言われなくても仲良いんで

なあペコ?」

「嬉しいっす」

「しかしペコのパンチは強烈だねえ

相手、宙に浮いてたよ」

「あれは、俺もビビった」

トモヨシがペコを見る

「大したことないっすよ、あんなの」

「敵にしたくないねえ」

「トモヨシは敵になりかけてましたけどね」

「あれ、喰らったら死んでたな俺」

「じゃあ、僕ら行きますんで」

「ああ、帰り道拉致られねえようにな」

「大丈夫ですって」

「功希さん、明後日ブランキーで」

「ああ、ペコ連絡する」

久しぶりに晴れやかな気持ちで

トモヨシと歩く

「おめえは本当にバカだな」

「ああ」

「おまえさあ

ちゃんとやめれるのかよ?」

「絶対やめる」

「そんなに良いのかよ

クスリって?」

「シャレにならねえ、でもよ

折角おまえが、くれたチャンスだ

俺はこれ以上墜ちたくねえ」

「おめえは口先ばっかりだからなあ」

「なあ、功希」

「ん?」

「俺はお前の親友で良いのか?」

「あたりまえじゃねえかよ

じゃなかったら危ねえ橋渡るかよ」

僕はトモヨシの肩を組んだ

「そんなのに頼らなくても

お前のギターはぶっ飛んでるから

絶対今からやるんじゃねえぞ」

「しつこいなあ、やめるって言ったら

俺は絶対やめる」

「じゃあ一杯飲んでくか」

「ああ」

歌舞伎町を出て

靖国通り沿いの地下のバーに入った

「ご注文は?」

「ジャックソーダで」

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