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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第二章 呵責

最終話 ソレの正体

すまなかった」

「お前が戻ってきたなら別に良いよ」

バンドの二人のメンバーは

僕らと違って

温厚な奴らでさ

さすがリズム隊と言いたくなる程

全体の空気を察知して

コトを丸くおさめてくれる

「で、トモヨシ、クスリはやめたのかよ?」

「ああ、キッパリやめた」

「じゃ、良いや、やめなきゃバンドやめろよな」

アツシは核心をついた事を言いやがる

「うちはクスリは禁止、約束を破った奴が出た時点で今後は解散な」

トモヨシをチラシと見ながら

僕は全員を見た

「約束を守る、輪を乱さない、社会のルールじゃなくさ

バンドのルールはせめて守ろうや」

「ああ、わかってる」

「じゃあ、もうこの話は終わり

音合わせようや」

頷くトモヨシが宝物のギブソンの

ボリュームを上げた

「ギュイーン」とトモヨシにしかだせない

その音は

空間を歪める

歪んだ空間の中で僕らは

息を吹き返した

ぶっ飛んでやがる

ギター ベース ドラムスが互いに干渉し合い

僕が声を乗せることで

その干渉はグルーヴと言う名の一体感に変化を遂げる

「アツシ、もっと跳ねたリズム頂戴」

「相当跳ねてるぜ?」

「ちげえんだよ、表現できねえんだけどさ、もっと気持ち良くさせてくれよ」

トモヨシ独特のこの表現を

僕はなんとなく理解できる

「理屈じゃないナニカ」

要望通りの答えは出ているのだが

ソレは正解ではない

う〜〜ん

伝わらないな

そう、プラスαだ

ふるさとに行って

「中華そば」を頼んで

「ほれ、餃子もおまけだ」と

頼んでもないのに

サービスで付けてくれるあの感じだ

ソレとはマニュアルを超越した

真のサービスの事だな

トモヨシは相手にソレを求める

相手はソレに答えようとするので

力以上の音を出そうと努力する

いつしかソレは「相手をもっと喜ばせたい」と言う願望に変わり

とてつもないパワーを発揮することになる

トモヨシはソレの意味を理解し

相手に求めているのではないだろうけど

ソレを引出させる能力に長けているのだ

「アツシ、ソレだよその跳ねが欲しいんだよ」

言われた当人は

まんざらでもない顔をする

こいつは宗教の教祖や

ネズミ講のリーダーに向いてるな

僕は唄いながら

笑いがこみ上げてきそうになったが

グッと堪えて

ソレを声で表現した

久しぶりに愉しくなった

「俺さ、曲と詩を書いてきてさ

ちょっと弾いて良いか?」

「おめえが詩?珍しいな」

「ああ、まあ聞いてくれよ」

パイプ椅子に座る

トモヨシを囲むようにして

僕らは床に座った

「いくつもの思い出が涙に変わった」

歌い出しで僕ら三人はポカンと口を開けた

ソレはマイナーコードから始まるウチのバンドでは初めての

「バラード」だった

僕らのバンドにバラードはいらない

ソレは暗黙のルールだった

普段は

跳ねたリズムにベースが乗り

パワーコードのギターが歪みをつくり

ラップ調のメロディが最後に乗るのが

僕らミクスチャーバンドの王道だった

「おいおい、トモヨシ、なんでバラード?

おめえがバラードは絶対やらないって言ってたじゃんかよ?」

ベースのタクが僕らの気持ちを代弁してくれた

「バカ、普段やらないことをやるから面白えんだよ

良いじゃんか、『こういうルール』はぶち壊して行こうぜ」

おいおい

どこまで自己中な奴なんだよ

「まあ聞けって」

「悲しい足音が雨音で消える」

いつしか僕らはそのバラードに惹き込まれた

「どうよ?俺の初バラードは?」

大分照れながら

トモヨシは僕らの様子を探るように

聞いてきた

「ええやん、そのバラード

トモヨシその歌詞貸して」

ノートを取り上げ

僕は目で合図した

奴が弾くコードにまだうろ覚えの

メロディーにその歌詞を載せて歌った

自分でも驚くような

声がでた

曲に心が入った瞬間だった

「曲名なんて言うの?」

「そりゃ、お前」

「なんだよ早く言えよ」

「悲しい足音」だよ

「うわ、超だせえ」

「うるせえなこれでいくぞ」

我らErrorの初めてのバラードの

タイトルは

「悲しい足音」

何故だか

僕は、この曲を大切に

唄いたくなった

「客はびっくりするだろうな」

「ああ、ファン減るぜモッシュもできねえ」

「どんなジャンルのバンドでもバラードのひとつくらい

あるだろ?ハードなバンドほど

良いバラード出してるじゃんか、スキッドロウとかさあ、モトリークルーとか」

「そういやそうだな」

「功希、次の練習までに完璧にしてきてくれよな」

「わかったよ」

「じゃあ、今日は俺が奢るから久々

皆で飲み行こうぜ」

「奢り?いくいく」

僕らはスタジオの階段を登り

地上をでた

地上の風は妙に

生温い嫌な風だった

その風は僕らの間を裂くようにして

我が物顔で

スリ抜けていった・・・・・。

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