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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第二章呵責

第五話 振りかざされた青龍刀

「ペコ、着いたけど、どこにいる?」

「自分、今、九龍に居ます」

「マジ?ヒデキさんも居るの?」

「今日は、まだ見てません」

「そっか、じゃあそっち行くわ」

「わかりました」

歌舞伎町という街は

本当に不思議な街で

様々な人種が入り混じっていて

仕事終わり欲望の街に入り込む

迷えるサラリーマンや

一目でその職種とわかる

コワイヒトタチ

ホストと同伴出勤している

風俗嬢のお姉さん

コマ劇前でぼーっとナンパ待ちしている多感な歳の女の子

言葉巧みな呼び込みの外国人

違法な地下カジノへと消えてゆくギャンブル依存症の男達

ここは地球儀に乗らない

異次元ネオン街

この街に居つくようになって、

僕も多少見た目でそのヒトの

ライフスタイルが

わかるようになってきた

この街は独特の呼吸をしながらイキテているのだ

九龍のドアを開けると カウンターに

ペコが座っていた

ヒグマのような風体のペコが無邪気な笑顔で

「功希さんお疲れっす」と隣の席の椅子を引いた

そこに腰かけながら

「ごめんね、ペコ」

「全然大丈夫っすよ、なんか飲みます?」

「じゃあ、ビールちょうだい」

「おい、功希さんにビール」

冷えたハイネケンの瓶ビールをペコの後輩がカウンターの席に置いてくれた

シュワシュワと喉ごしの良いビールを流し込んで

「で、ペコ、トモヨシは?」

「あいつね、絶対なんかやばい事やってますよ

チームに入った時と雰囲気が別人でした」

「そっかあペコにもわかるんだ

俺もさ、この間久しぶりに会った時嫌な勘が働いてさ

探りを入れると

あいつ逆上して揉めたんだよね

やばいクスリとかやってなきゃ良いけどさ」

「あいつ絶対やってますよ、雰囲気でわかるじゃないっすか」

「信じたいんだよね、俺」

「功希さん、自分が言うのもなんですがこれ以上あいつに関わったらややこしい事に巻き込まれますよ」

「しょうがねえよ、巻き込まれて君らのチームにリンチされたけどね」

「ですよね、功希さんに初めて会った後、ヒデキさんに詳しく聞きましたよ

笑いながらあいつは根性あるって褒めてましたよ」

「ねえよ、根性なんか

正直死ぬと思ったよ」

ヒト二人半殺しにしておいて

笑いながらソレを言うヒデキは

やはりぶっ飛んでやがる

「あいつが居そうな所わかるわけないよな」

「わかんないっすね、チームの奴らに探すように言ってます、

一応元メンバーなんで、面は割れてますからね」

「助かるよ、でもあいつなんで歌舞伎町に居たんだろう」

「やばい事やってるからでしょ」

「そんな奴じゃないんだよね、根は真っすぐだからさ」

「そうですかね」

「ペコさ、その刺青なに?」

「ああ、これですか?三国志わかります?関羽という武将っす」

「へえ、関羽か、俺も好きだよ三国志、吉川英治の小説読んだ?」

「小説っすか?無理ですよ字ちゃんと読めねえし漫画は全部読みました」

「ペコは高校出てるの?」

「行ってねえっす」

「似たもの同士か」

「功希さんもですか」

「ああ、俺らみたいなバカは本読まないとだめだよ

どうせ勉強しねえんだから」

「そんなもんすかね?じゃあ勇気をだして小説も読んでみます」

「お、偉いねえ、ペコ

んで、そろそろ敬語やめようよ」

「歳はタメでも

学年は一つ上ですし功希さん

ヒデキさんのお気に入りなんで

タメ口なんて絶対無理っす」

「学年なんて関係ねえよ

お互い学校行ってねえんだからさ」

「無理っす、無理っす」

こいつ好きだなあ

風貌はイカツイが少年のようなペコに親近感が湧いた

青龍刀を振りかざしこっちを睨む関羽の刺青を見ながら

「なんで関羽いれたの?」

ペコは刺青をさすりながら

「ウチのチームは中国系でしょ、

誰もが憧れる

強くて優しい中国の武将って

僕の中で

関羽なんですよ」

「へえ、ナイスなチョイスやん」

「功希さんのたまに出る関西弁好きっすよ俺、無理に標準語

話す事ないじゃないっすか」

「うつるんだよね」

「功希さんの標準語変ですよ」

ペコはまた、少年のように笑った。

電話が鳴る

「もしもし、マジ?すぐそっち行く」

「功希さん、トモヨシ捕まえたらしいです、すぐ近くですよ」

僕は無言で席を立った

「ホテル街の方です一緒行きます」

久しぶりの全力疾走

横目にうつる 人 人 人 のショートドラマ

僕らは、彼らのエキストラとなり

様々な物語に一瞬登場する

全力疾走するノッポとデブの

十八歳、存在感は抜群だっただろう

人気の無いホテル街に

群れがあった

その群れに近づくと

ビンゴだった

「おい、トモヨシ」

「なんだよ、おめえか?こいつら使って俺を捜してる奴って」

「ああ、悪いかよ」

「誰?こいつ」

この群れの中で

様々な言葉の爆弾が飛び交う

聖徳太子じゃあるめえし

多種多様の言葉を聴くのは無理で

見慣れない恐らく敵の男に照準を絞った

「ああ?トモヨシの連れだよ」

「マジか?トモヨシおめえの連れってバンディットなの?」

「違う、こいつは関係ねえ、だいたいなんなんだよいきなり囲みやがってよ」

群れは僕とペコを除いてナナニン

バンディットは四人 そして奴らは三人

「おめえがふてくされてバックレるから、こいつらが

捜してくれたんだよ、何やってんだよ歌舞伎町でよ」

「あ?おめえには関係ねえだろイチイチうるせえんだよ」

「功希さんはな、おまえの事ずっと心配してたんだぞ」

「それが余計なお世話なんだよ、キモイよお前、流行りのストーカーか?」

感情という導火線は厄介なもので

一度火が付くとその爆弾は 不発弾ではない限り

大きな爆発を起こしてしまう。

無言でトモヨシの髪を鷲掴みにした

「おい、いてえよ功希コロスぞ」

凄むトモヨシは、

ベツのニンゲンにみえた

「なにがあったんだよおまえ」

「とりあえず放せ」

ドゴンと腰のあたりに衝撃が走った

「調子こいてんじゃねえぞ」

その衝撃の主はトモヨシの仲間

「其の一」君の蹴りが

僕の腰に見事にクリーンヒットしたモノだった

「いてえな」

「其の一」君を睨んだ

その瞬間 「其の一」君が吹っ飛んだ

なにかの気功法のように

ヒトが宙を舞ったのだ

「おい、横からしゃしゃり出てんじゃねえよ」

関羽のようにギョロリと睨み

破壊力抜群のパンチという

青龍刀を振りかざしたペコの

殺陣は見事だった

「其の一」君は失神して

ピクリとも動かない

「おい、トモヨシ一緒に来い」

「バカか?こっちは一人やられてんだよ」

「もう一人やっちまうぞ」ペコはもう一人を見た

あきらかに「其の二」君は

さっきのペコのパンチで

戦意を喪失している

「功希、バンディットに入ったのかよ?」

「入ってねえよ」

一瞬、いつものトモヨシの表情に戻った気がした

「なあ、トモヨシ俺はこんな事しに来たんじゃねえよ

お前とちゃんと

話ししたいだけなんだよ」

「わりいけどよ、無理だ」

ポケットに手をいれて

取り出したものを見た僕は

絶望感から起こる笑いの存在を知った。

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