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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第三章 交わる力

第一話 テールランプの向かう先

「ロックンロール」

ベースの照井の叫び声と共に

地面が揺れた

人々の雄叫びは轟音と化し

このパワークロスは

太陽までも

落としてしまうのではないか?と

思っても

おかしくないくらい

一つの勢いになっていた

「ブランキージェットシティ」の

歴史的なフリーライブが開催される

代々木公園近辺は異様な熱気に包まれ

ソコを目指して集まる奴達の

改造した自慢のアメリカンバイクが

縦横無尽に路駐され

偶然そこを通った人達は

普段関わる事のない

バイカーやワルの香りのする

オーディエンス達に

戸惑っていただろう

レールの上を脱線せずに生きてきた

「偉大なヒト達」に無関心な

「そういうヒト達」の込み上げる

アドレナリンの矛先は

遠くのステージのみだった

「おい、ペコ」こんなに沢山のオーディエンスの中でも

一際目立つペコを見付けるのは容易いものだった

「功希さん、お疲れっす」

「お疲れ、しかし凄い人数だね」

「タダっすもんね、考えられないでしょこれ」

「ああ、おまえステージ前でS Pやりなよ」

「居そうだもんね実際」

「暴れる奴をなぎ倒してやるよ」

笑いながらトモヨシとペコは

コブシとコブシを軽く合わせた

僕ら三人は

ステージに近づく為に

人混みを掻き分け

たまに無言で睨んでくる奴らを無視しながら

前へ前へと向かった

「これさあ、金取ってたら

かなりの額になるよね」

トモヨシが人をどかせながら

現実的なことを言う

「タダだからこんなに集まるんじゃん?」

ペコの言い分も一理ある

僕はふと考える

「タダだから来るのか?

それともブランキーを生で聴きたいからなのか?」

「来たいからだな」僕は考えるのが面倒になって

都合の良い方に解釈した

「なあ、功希、俺らもいつかこういうライブやりてえな」

「そうだねえ、夢があるねえ」

「じゃあ、その時はステージ前で警備やりますよ」

ペコは良い奴だな・・・・

「うお、出てきたじゃん」

メンバーがステージに現れ

少しでもステージに近づこうとする

人の波が僕らに押し寄せてきた

「痛えなあ」

時折ペコが後ろの人間を威嚇する

実際息ができないほど前後に挟まれ

酸欠になりそうな勢いだった

「メロンソーダとチリドッグ」

ボーカルのベンジーが放つ

アメリカを感じさせる文言とクールなサウンドに

僕らは骨抜きにされた

巨大な波が

ステージに向かって押し寄せ

そして一瞬引いて

また大きな波になる

普段ヒトの言うことなんか決して聞かない奴らの

集団が、また

「一つ」になっている

冷静に考えれば凄いことで

小さなライブハウスで王気取りだった自分がチッポケに感じて

「いつか、必ず」と

僕の心の中のナニカが変化した

「凄かったな」

熱狂しすぎて腑抜けになった僕ら

三人は明治通りの歩道橋を

意味なく登った

歩道橋の真ん中あたりで

立ち止まり

次々と渇いた音を立てて去ってゆく

アメリカンバイクを無言で眺めながら

「俺はバカだなあ」と呟くトモヨシの肩を

ポンと叩いて

「俺もだよ」と

まだ十代の三人はそ

の後無言で

ずっとバイクのテールランプを眺めていた

ぼーっと放心しながら

テールランプに意識を集中しているとぐちゃぐちゃと自家用車達が走る

明治通りが

よく見るアメリカ映画の

砂漠に続く広大な一本の道に見えた

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