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ゲンバビト

by 加藤 いさお

第三章 交わる力

第六話 巻きつく龍

「あいつは、平気で人を刺す奴だよ」

ヒデキの言葉が何度も何度も頭の中を

駆け巡った

刃物を出す奴は幾度となく見てきたが

(実際に刺す根性ある奴なんてどうせいないだろう)と

僕は世の中を舐めすぎていた

存在するのだ

良心の呵責なぞ微塵も感じない奴

後先考えずに

その場の感情で

ブスリとイク奴が・・・・

常人なら

刃物で斬りつけた後に

ケラケラと笑う事なんて

できないだろう

(なんなんだあいつは)

「功希さん、何処にいるんすか?」

「公園だよ、明治通り沿いの」

「それだけじゃわからないっす」

(我武者羅に走ったから本当にわからない)

渋谷でわかるところと言えば

ハチ公前 公園通り スペイン坂 そしてセンター街

そしてタワレコ・・・・

「ペコ、タワレコの近くだよおそらく」

「宮下公園ですか?」

「いや、ソレくらいわかるよそんなデカくない」

「とにかく宮下公園あたりでまた電話します」

「ああ、ごめんねペコ」

(大阪に居た時より酷い毎日だな)

疲れ切って僕は

ゆっくり目を閉じた

二年前・・・・・

「なんで東京行きたいんや?」

「おかん、俺は、自分の夢叶えたいねんこのまま、こんな生活続けてたら

絶対ダメになりそうやし」

「行きや」

「ええの?」

「ああ、そのかわり泣き言いうて帰ってきたら承知せえへんで」

「うん、わかってる」

「あんたはな、やればできる子や

なんでも中途半端にやるから

なんもでけへんねん、ソレ自分でわかってるか?」

「分かってるって」

「気ぃ弱かったからな幼稚園も泣きながら行ってたしな」

「そうなん?憶えてへんわ

そんな昔の事なんか」

そう言いつつ僕は

何故かハッキリと憶えている

シーンがある

幼稚園に行くのが嫌で

朝、泣いていると

母に叱られる

「メソメソしとらんとはよ行き」

「・・・・うん」

「これ、パンとオレンジュースやから食べながら行き

ゴミはゴミ箱捨てるねんで」

トボトボ、トボトボ、そしてトボトボ歩く

当時の僕にとって徒歩10分の距離が

とてつもなく長い道のりだった

遅刻しているので

誰も居ない幼稚園の門をくぐる

教室に入ろうとして

ふと門の方を向くと

ソコには母の姿があった

心配してついて来てくれていたことに驚いた僕は

次の日から

ちゃんと幼稚園に行くようになった

「じゃあ、行ってくるわ」

「お前はやれば絶対成功する

こっちの事は心配せんと

必死で頑張るんやで

人に迷惑かけたらあかんで」

「ああ、ありがとう」

東京行きの新幹線の車内の踊り場で

遠くなるホームを見ながら

妙に悲しくなった

「このままじゃ、あかん」

無情に走る新幹線ヒカリの車内で

固く決意した

電話の音でふと我に返った

「功希さん、今、宮下公園前に停めてます」

「え?わかんない」

「原宿方面に少しだけ歩いて来てくれます?」

「分かった」

「歩けますか?」

「ああ、もう大丈夫」

(俺、何してんねん、おかん、ごめん、ちゃんとやる)

足取りが軽くなった

ドドドドド

独特のエンジン音が

あの車はペコだと

すぐに誘導してくれる

「功希さん、大丈夫っすか、なんすかその血?病院いきましょう」

「ありがと、大丈夫だよ血も止まって来たような気がするし

病院なんてこの時間開いてねえよ」

「いや、止まってないでしょそれ?」

「とりあえず新宿戻りましょう乗ってください」

「ああ」

ふと、後ろを振り向くと

遠くで母が見ている錯覚に陥った

(ちゃんとするから大丈夫)

そう心の中で呟きながら

ファイヤーパターンのアストロに乗った

「なんで、トオルと渋谷なんかで?」

「いや、やぼ用でさ公園通り歩いてたら、歌舞伎町のキャッチの兄さんに偶然会ってさ

少し話してたら

三人組がその兄さんに喋りかけて来て

その一人がトオルだったみたい」

「え?それでどうしたんすか?」

「トオルの顔知らねえからさ気にすること無く

俺は、一人でパルコ方面に歩いてたんだよね」

「じゃあ、その一人が追いかけて来て」

「トモヨシの友達だろ?って喋りかけて来て、ソコにトオルが居たのさ」

「いきなり斬られてさ。あいつ笑ってたよ、正直ビビったよ、訳わからず

猛ダッシュで走ったんだよね

情けねえ」

「シャレになんねえすよ、ヒデキさん

知ったらトオルにブチ切れますよ

なんなら俺がトオルやっちゃいますよ」

「いや、もういいよ関わりたくねえ

おめえらが言ってた意味が分かったよ

あいつジャンキーだろ?」

「そうっすね、あいつは骨の髄からジャンキーですよ

でも、これはヒデキさんと僕の問題です、友達をやられたまま

黙ってたら

面子も潰れますから」

「ペコ、ヤクザじゃねえんだから

面子とか報復とかもうそんな事

やめてくれよ

互いに傷つき合うだけで

何も残らねえよ

お前は良い奴だよ

お前に何かあったら

俺、どうすりゃ良いんだよ?」

「大丈夫ですよ、自分には関羽がついてるんで

それよりその血止めましょう」

「動脈からずれてるから大丈夫だって」

「いやあ、本当に動脈じゃ無くて良かったっす」

歌舞伎町一番街の看板が見えて

なんだかほっとした自分に気付き

(どっぷり浸かってるなこの街に

まずはこの街から離れよう)

そう決心しているうちに

アストロは九龍前に到着した

何気に見上げると

ビル全体が

龍に巻き付かれていた

その龍は僕をジロリと睨んだ。

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